第20話 ひとりとひとり

 ノーシスがゆらいで、元の色に戻る。

 飛んできたのは桃色のかけら。気にせず、ピュアがアレンジのほうを向いた。

「ありがとう」

「……」

 水色の少女から返事はなかった。すこしながめたあとで目をそらして、建物たてものかげに向かう。

 ビーだまより小さなかけらを回収して、ピュアもつづく。

 変身へんしん解除かいじょする二人。それぞれの宝石ほうせきを手に持つ。ほおのゆるみをおさえきれないマユと、真顔まがおのサヤカがならんだ。

「ねえ。一緒いっしょたたかおうよ!」

無理むりだから」

「なんで? すごかったし、いろいろ教えてほしいし。シューも何か言ってよー」

『ギア。ひさしぶりな気がするね』

 桃色ももいろ宝石ほうせきがしゃべって、水色みずいろ宝石ほうせきが1回光った。どちらも欠けている部分が多い。

「どうしてもって言うなら、宝石ほうせきを全部渡して」

「ギア、ふたつに割れてて大丈夫だいじょうぶ? って、なんでそういうこと言うの!」

 笑っているのかおこっているのかよく分からない表情のマユが、大声を出した。

「それで、一緒に勉強する」

「ダメだよ。約束したから。シューの記憶を一緒いっしょに取り戻すって」

 まゆを八の字にして、口をへの字にした少女がうつむく。宝石入ほうせきいりのケースをにぎる手に、強い力が入っていた。

『協力したほうが、コウリツテキじゃない?』

「なるほど。そういうこと」

 長い髪をゆらし、サヤカが去っていった。かばんを拾って図書館としょかんへと入る。

 水色みずいろ宝石ほうせきが何度光ったかは、見えなかった。


 すでに、セーマから元の姿に戻っている。

 あたりを見回し、大事そうに本を抱える老人ろうじん図書館としょかんを見つめた。


「どういうことか、わかんない」

 入り口近くで、マユは頭を抱えていた。かばんに手をのばそうとして、さきに拾った人から手渡される。

「大事なものは、手放てばなさないほうがいいです」

「はい。ネモトさん、こんにちは」

「こんにちは」

 女性は、優しそうな顔で笑った。頭の後ろでお団子だんごのようにまとめている髪。マユより背が高く、魅惑みわくの体つきを緑の服装で包んでいる。

 ネモトはマユの近所に住む。大人の女性。あこがれていると、本人に伝えてはいなかった。

 なんでも相談そうだんしていいと言われている少女が、口を開く。

「あの。一緒いっしょ頑張がんばろう! って、なってくれない人には、何が必要だと思いますか?」

 心理学しんりがくくわしいという女性は、柔らかな表情をつづけている。

「自分ならどう思うのか、相手の思いは何か。考えることも大切ですが、たしかめることも重要です」

たしかめる?」

「早く仲直りしたい、とは思いませんか?」

 さっき大声を出した。少女が思いだし、ネモトのアドバイスを胸に刻む。気遣きづかってくれていると感じて。

「そうですよね。ありがとうございます」

 屈託くったくのない笑顔を見せるマユ。花が咲き乱れるような可憐かれんさに、シューが何も言わない。

 ネモトは、おだややかに微笑ほほえんだ。



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