第19話 二人のラディラブ

 目の前でサヤカが変わった。

 アレンジはすぐさま戦おうとしている。幻の世界へ早く干渉かんしょうできなかったことを、少女は悔やんでいた。それを、マユは知らない。

 ためらいとは無縁なボブカットの少女が、ふたつの荷物を置いた。

「お願い。シュー!」

 マユがまるいケースをかざし、なかのピンクの宝石が輝く。

『エックスカラット』

 ピアノ中心の音楽が鳴った。

 光に包まれる少女。

 すぐに服が変化していく。桃色を基調とし、ひらひらとしたかわいらしい服装へと。

 シューは、移動ポケットの飾りとして腰の左側に。

 剣のような形の髪飾りがつく。うしろ髪はそのままで、後頭部だけ小さくひとつに束ねてある。

 すばやく変身完了。

「ラディラブ・ピュア!」


 アレンジとセーマから泡が広がっていく。

 水色と黒が別世界へ移動したことを知る人も、認識できる人もすくない。

 続いて、ピュアがノーシスに入った。力のある者には、スポーツの競技場より大きいことが分かる。


 黒い足で踏みつぶされていく花壇。

 アレンジが飛びかかり、光がきらめく。のけぞる黒い巨体。自動車を吹き飛ばしながら、木をまっぷたつにして止まった。

 駐車場の端で寝ころぶセーマには、本の背表紙やしおりのような部分がある。

「危ない!」

 回転しながら飛んできた黒い紙を、ピュアが光を飛ばして防いだ。爆発が起こる。

 アレンジの長い髪が風でゆれた。振り向かず、起き上がろうとするセーマへ走りだす少女。守ってくれた相手に背を向けたまま。

 どちらも正体について触れない。離れて戦いつづける。

『やけに無口だね』

 目の前の敵を倒すことに専念するアレンジ。それに比べて、ピュアはあまり攻撃しない。図書館を背にしていた。

 たくさんの黒い紙が回転を始めて、アレンジが身構える。紙は図書館へと向かった。

『ノーシスの説明、したよね?』

「わかってる。けど、壊されたくない!」

 何が起こっても現実に影響しない。理解できていても、少女は建物を守っていた。あれが本を大切にする誰かの心だと気づいて。

 数が多く、迎撃できなかった紙がうなりを上げる。

「目を開けて!」

 ピュアが受けるはずの衝撃はなかった。目を開くと、アレンジの放つ光があった。

「助かったあ」

 わかれていた光が収束して、セーマを横薙ぎにする。

 衝撃波でガラスがゆれた。倒れた黒い怪物を、二人は見逃さない。

「ラディラブビーム!」

「ラディラブレーザー」

 別々に決め技を使い、セーマが光に包まれる。幻の世界が消えようとしていた。

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