第18話 構築された思い

 本棚ほんだながならぶ部屋へやは、落ち着いた色で満ちている。

 二人の少女がならんですわった。小声で話す。

「わたしの家でいいのに。図書館としょかんまで来なくても」

「なんとなく、ここがいい気がしたから」

 机の上に置いた小さなかばんから、サヤカが本を取り出す。同じくかばんを置いたマユ。身を寄せ合って、勉強が始まった。

 マユがうなり声を上げる。

法則ほうそくを考えて」

「なるほど」

 何度目かのなるほどを言ったとき、久しぶりにシューがしゃべった。

『セーマだ。近いよ』

 マユは立ち上がらなかった。席を立ったサヤカが、すたすたと歩いていくのを見ていた。残されたかばんを持つ。

 窓の外に、くろきりが迫っていた。

あわててるから、見えて、げる?」

 つぶやきに答えはない。ロングヘアをなびかせる少女を、もうひとりの少女が追いかける。

「もう。勉強を邪魔じゃましないでよ」

 肩まで届かない内巻きのかみみだして、いかりのいろをにじませる。走らずに後を追った。


 セーマは木より大きい。

 巨大なくろ怪物かいぶつが迫るなか、図書館としょかんから出たサヤカが立ち止まった。

 後ろにいるマユは、決意けついちたかおを見ることができない。

「いくよ。ギア!」

 サヤカが、まるいケースをかざした。なかのライトブルーの宝石ほうせきかがやく。

 1回だけ光った。

 打楽器中心だがっきちゅうしんの音楽が鳴りひびく。

 光に包まれる少女。

 かがやいて、服が変化していく。はずむような高い音とともに。

 紫陽花あじさいよりもあざやかな水色を基調きちょうとし、ひらひらとしたかわいらしい服装になった。あちこちがフリルで飾られている。

 長袖の先がカフスに変化した。オーバーニーソックスと靴も変わる。

 短めのスカートをゆらし、移動ポケットの飾りとして、ギアがおさまる。

 前髪の左上に、つばさのような形の髪飾りがつく。長いうしろ髪はそのままで、左右がふたつ細めに束ねられた。

 決めポーズとともに、変身へんしん完了かんりょうした。

「ラディラブ・アレンジ」


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