第四節 サヤカとギア! 優しさと強さ

第16話 口実と勉強

 教室で、マユがうしろからかれた。

 ほかの生徒たちは、授業が始まるまで雑談ざつだんしている。紺色こんいろの冬服が、いくつかのグループにまとまっていた。

「忘れてたこと、思い出したよ」

「こら。カナエ。おはよう! が先」

「おはよう」

 ボブカットをみだされたマユが言った。三人の表情がやわらかくなる。

 メグミに引きはがされた少女が、のんびりと話し出す。

「一緒に勉強したとき、サヤカをさそって、合流する予定だったんだねぇ」

「だねぇ、って、そんなに仲よかったっけ? 藤志水とうしみずさんと」

「勝手に、仲がいいと思ってるだけだったりしてぇ」

 ショートカットの髪型は、メグミのあきれ顔を隠していない。肩に手を回されたカナエが、クセのある長い髪をいじられ始めた。

「うらやましいなあ」

 マユは、素直すなお気持きもちを口にしていた。隣にサヤカがいないからではない。

怪物かいぶつさわぎがあったから、帰ったのかな?」

「なかったでしょ。また、怖い夢――」

「こらこら。残念ざんねんだ。用事がなければ、行ってたのに」

 マユに手をのばしたカナエを引っ張りながら、メグミがくやしがった。

「おはようー」

「おはよう」

 カナエにあいさつを返して、教室にサヤカが入ってくる。マユの隣の席についた。何も言わず、長い髪をいじっている。

 座る少女の髪をととのえる、カナエ。ほどなくして、授業が始まった。


 マユの隣の少女が、なんなく問題に答える。

 授業が終わった。サヤカは、隣の少女に威張いばらない。難しい顔で教科書とにらめっこしているマユに、優しく話す。

桃枝ももえださん」

「はい。わたし?」

「この前できなかった勉強をしようと思うけど、どう?」

「もちろん。ありがとう、サヤカさん」

 マユが了承りょうしょうする。まぶしい笑顔から一瞬目いっしゅんめをそらして、サヤカがわらいを浮かべた。


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