第10話 握られた手

「カナエ。起きて。カナエ」

『もう起きるよ』

 腕の中で、少女の目が開いた。なぜマユに抱きかかえられているのか分からない様子。のんびりとカナエが口を開く。

「おはよう」

「よかったー。カナエが怪物かいぶつに変えられちゃって、それで、わたし、わたしが――」

「またまたぁ」

 カナエは冗談じょうだんだと思っているらしい。力の入っている腕にやさしくれて、二人が立ち上がる。

 マユはまだ心配しているようで、カナエの手をにぎった。

 暖かさを確かめているような少女が、前に引き寄せられた。顔が服に触れる。

「怖い夢でも見た? よしよし」

「眠ってたのは、カナエでしょう」

 ほっと息をはき出したマユ。ようやく笑顔になった少女に、宝石ほうせきが口をはさむ。

『ほら。言わなくてもよかった』

 カナエは、その言葉に反応しない。

「あれ? なんでここにいるのかな?」

「そう。勉強だよ。もう、放してよ」


 髪の長い少女が、遠くから二人の様子を見ていた。

 サヤカは笑っていない。かといって、けわしい顔でもない。髪が風に遊ばれる。

「言わなくてもいい、か」

 にぎった右手で、水色の光が1回きらめいた。



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