第8話 倒れる友

 変身へんしんした少女が、怪物かいぶつ見据みすえる。

「ん!」

 鼻から息とともに声がもれた。胸の前で手をかたく握るピュアから、シャボン玉のようなものが広がる。

 同時に、巨大な黒いものからも広がっていく。ぶつかって合わさった。

 ゆらぎがふくらむ。街の一区画がすっぽりとおさまったことは、内側からでは分かりにくい。


 ここは幻の世界。

 ノーシスと呼ばれる範囲はんいに立つのは、ふたつの存在だけ。

「誰もいないよね?」

『いたら、びっくりして叫ぶから、すぐわかるよ』

 シューの言葉で、不安な表情が和らいだ。現実げんじつの世界とは色がすこし違うことを確かめて、桃色の少女が走り出す。

 ピュアは、最初のたたかいよりも落ち着いていた。

 怪物かいぶつからいくつも生えている鉛筆えんぴつのような部分を気にしつつ、一気に接近。

「ひざ!」

『そこは、すねだよ』

 ひかこぶしが当たった。怪物かいぶつが前のめりにかたむいて、ピュアが慌てて屋根の上までぶ。

 バキバキと音を立てて、道のそばの家が壊された。

 転んだ怪物かいぶつが立ち上がろうとする。大きな腕を動かすたびに、周りがおもちゃのように破壊はかいされていく。

「立っちゃダメ!」

 ジャンプした桃色から光がほとばしった。うなりをあげる右足が、黒色に迫る。

 背中に直撃ちょくげき怪物かいぶつが吹き飛んだ。

 衝撃波しょうげきはのあとで、家がいくつもバラバラになっていく。派手に壊れた街を見る人は、ほかにいない。ノーシスには。風が窓をゆらす。

『やったね』

「やりすぎ!」

 ものすごい速度で走ったピュアが、すぐに怪物かいぶつの姿をとらえた。道の真ん中で動きが止まっている。

『いいね』

「ラディラブビーム!」

 煙を通してはっきりと見えるレーザー光線のように、手から放たれた光には色がある。光に包まれ、怪物かいぶつが消えた。


 蒸発じょうはつするようになくなっていく、ノーシス。まちが元に戻る。

 ただ、違うこともある。

 怪物かいぶつがいたところには、カナエがいた。

 あおむけで倒れている少女は普段着。髪はくせが強くて長め。服に乱れはない。

 ピュアは、まだ変身へんしん解除かいじょしていない。動けないほどのショックを受けているようだった。

「なんで、怪物かいぶつ正体しょうたいを黙ってたの?」

『戻るんだから、言わなくてもいいでしょ』

 宝石ほうせきのかけらが飛んできた。固く閉じられた手ではなく、ポケットの中におさまった。


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