第二節 怪物の正体? うごめくガイロン

第6話 ひとりとひとつ

 やわらかな色合いの部屋へや

 ボブカットの少女が、腰に移動ポケットをつけている。薄いピンク。桜色より明るい。

『つまり、力がクッションになる。なぐってもマユの手がいたくない』

 少女とは違うところから声がして、結ばれた口がひらく。

「もっとかしこい人がいたら心強いのになあ」

 近くには、まるいケースが浮いていた。真ん中にピンクの宝石ほうせきがはめ込まれている。一見すると、手鏡の裏側うらがわ

「これで持ち運びやすいね。シュー」

念動ねんどうがつよくないと、戦いすら見えないよ』

 つかまれたケースから声がした。正確には、十字の桃色の部分から。長い上のほうが多く欠けている。

「おかあさんは仕事で忙しいし、心配かけたくないし」

『まず、ボクの声が聞こえないと思うよ』

 移動ポケットに入れられた宝石ほうせきのシューと、噛み合わない会話がつづく。

 茶色を基調とした服を動かして、マユが踊るような仕草をした。服のオレンジの線が美しく舞う。

「わたしが、サヤカさんくらい頭がよかったらなあ」


 マユから見たサヤカのイメージは、知的。

 学校の問題をすらすら解く。それでいて長髪をかきあげないし、威張いばらすこともない。しとやか。

 あまり笑わないようで、相手が喜ぶと優しい顔になっている。

 何を話せばいいのか分からず、マユから声をかけたことはほとんどなかった。


 机の上で、小さな手が止まる。

 マユが数字とにらめっこするのをあきらめた。電話をかける。

「カナエ。ちょっと時間ある?」

『難しいよねぇ。一緒に考えようよ』

 機械的きかいてき変換へんかんされた相手の声がひびく。

 短い通話で、友達が家まで来ることになった。腰にある薄ピンクの入れ物から中身を取り出して、マユが語りかける。

「シューの声って、電話から聞こえる声に似てない?」

『ボクはここにいる』

 声に怒りの色はない。いつもどおりの可愛かわいらしさだった。


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