第2話 現れた怪物

「どこから来たの?」

『さあ。そんなことより、前を見ないとあぶないよ』

 歩いていた少女が、歩道ほどうで立ち止まった。ほとんどの記憶を失っている宝石ほうせきをにぎりしめて、宣言せんげんする。

「シュー。わたし、力になりたい」

『力って? かけているモノをおぎなうってこと?』

「記憶だよ。どうすれば思いだせるかな?」

 空をとぶ鳥も、さんぽしている犬も、マユの持つものに見向きもしない。通りすぎる人が、ふしぎそうな顔を一瞬だけ見せる。

『できないね。ふつうの人には』

「まあ、そうだよね」

『マユにはできる。ボクに気づいたことが、そのショウメイだよ』

 少女が、咲きほこる桜のような笑顔を見せた。

「あ。メグミだ」

 前を歩く同じクラスの少女を見つけて、マユが早歩きになる。口元へ近づくピンクの宝石。

「とつぜん話して、びっくりさせようよ」

『やめたほうがいい』

 シューがつぶやいたとき、遠くの地面から黒いかたまりがきだした。平屋ひらやの家より高い。体長5メートルほどで、人に近い形。

 巨大な着ぐるみのような怪物かいぶつには、あちこちに花びらがついている。


 近くの人たちは、誰も驚かなかった。

 怪物かいぶつからやみが染みだし、れた人たちが倒れていく。悲鳴を上げる暇もない。

「こっち! メグミ!」

 遅かった。振り向く前に、メグミが倒れた。

 黒いきりが広がって、マユはじりじりと後ろに下がっていく。

「何か。なんとかしないと」

『どうしたいんだ?』

 シューの声には緊張感きんちょうかんがない。甘えた猫のような雰囲気ふんいきすら、かもし出している。


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