カラット・ラディラブ

多田七究

第一章 始まりの記憶

第一節 マユとシュー! ピュアな出会い

第1話 しゃべる宝石

 灰色の部屋へやの中心から、つよい光があふれた。

 まぶしいピンクとライトブルーが重なる。

 観測機器かんそくききでは色がよくわからない。白と黒が支配しはいする、モノクロームの映像。石のような何かの割れる音が、高くひびいた。

 光がはじけ、天井てんじょうが突き破られる。夜空に高く舞い上がった。

 ふたつの色は空中で凍ったように固まり、すぐにそれぞれ別々の方向へと飛んでいく。

 部屋へやの中に、きらめく沢山たくさんのかけらが降り注ぐ。ゆっくりと。

 そこにいる女性は、天井てんじょうの穴の先を見つめていた。落胆らくたんしている様子はない。


 うららかな朝の住宅街じゅうたくがい

 ひとつの家の中。ボブカットをらして廊下ろうかを歩きながら、少女が母親に告げる。

「いってきまーす」

「いってらっしゃい」

 制服姿の少女が、朝日に向かって進む。紺色こんいろひしめく中学校へ着いた。

 二十人ほどがいる教室は、初々ういういしさであふれている。机の上に置かれた、かばん。ショートカットの少女と、長めでくせ毛の少女と距離が近い。

「メグミもカナエも、制服だとなんか変な感じだね」

「冬服重いけど、よかったあ。マユと一緒で」

「喜ぶ相手が違うんじゃないかなぁ? めぐめぐ」

 となりの席につくロングヘアの少女は、会話に参加しなかった。


 真新しい制服で学校から出てくる、生徒たち。

 家へと歩くマユが、道で光を反射はんしゃするものを見つけた。ほかの人たちは気にしていない。

「ピンクのヘアピン? じゃない。宝石ほうせきだ」

 落ちている物は、親指くらいの大きさ。見た目よりも軽いことに驚きながら、少女が手に取った。冷たくない。

「きっと困ってるよね。交番に行って、落とした人に――」

『それは、こまる』

 宝石ほうせきがしゃべった。かわいらしい声で、まったく困っているようには聞こえない。

「え? えっと、桃枝ももえだマユです。よろしくお願いします」

『なんで慌ててるの? ボクは、なんだったかな。シュ……シュー? ちがう気がするなあ』

「あちこち欠けてるから、忘れちゃったのかな? 大丈夫だいじょうぶ?」

『だいじょうぶかはともかく、誰も気づかないから困ってたよ』

 桃色の宝石ほうせきは、記憶きおくがはっきりしないらしい。名前もおぼろげ。長い上部分が多く割れていて、十字に近い形。けんのようにも見える。

「とりあえず、シューって呼んでいいかな?」

個体こたいがシキベツできればいいよ』

「難しい言葉を知ってるんだね。記憶喪失きおくそうしつなのに」

 ほとんどの人たちから独り言に見えていることを、まだマユは知らなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る