お題【来る】行きはよいよい…

――この話を聞いた人のもとに、必ず来るの。

 友人はそう笑った。

 私は1人暮らしのアパートで、いつもより大きめの音で映画を見ていた。

 子供騙しと思えども、怖いものは怖い。

 ノックの音がする。

 ノック?

――赤い手形が目印よ。

 私はごくりと生唾を飲み込んだ。

 ノブを握り、スコープを覗くが、もちろん誰もいない。

 そっと扉を開ける。ふと違和感を覚えて手のひらを見た。

 ぬるりと赤い液体がノブについている。

 私が握るより先に、ノブについていたのだ。

 ぱた、ぱた、ぱた。

 主の見えない足音が、廊下を遠ざかっていく。

 今『来た』のではなく、既に『来ていた』のだ。そして外に出るため、ノックを…。

 私は戦慄し、思わずつぶやいた。

「猫かよ…」

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300字の世界 荒城美鉾 @m_aragi

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