お題【石】二人乗り

 雅は自転車をこぐのが上手い。私が後ろに乗っても、ふらつくことなく走っていく。電動自転車に乗り始めたのも雅が先だった。

「早く、お店開いちゃう!」

「文句言うなら自分で歩きな!」

 私と雅の薬指には小さな石の、同じブランドの指輪が光っている。

 私の結婚が決まった時、雅と同じ流行りの指輪にすると言うと、彼女は笑った。

「そんなに私が好きなの?」

 と。

 それ以上のことなど望めない時代だった。

 やがて雅が離婚し私の伴侶が亡くなっても、私達は指輪を外さなかった。

 もし某店の開店待ちを目指す、喜寿近い二人乗りがいたら、指を見て欲しい。同じ指輪をしていたら、私達だ。

 いつかの問いに、「そうだよ」、と私は口の中で呟いた。

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