お題【帰る】ほくろ

 髪を結んではいけない。そう言われて私は育った。その理由は実家に住んでいた大おばが教えてくれた。大おばはあの年代にしては珍しく、独身で生涯を終えた人だった。若い頃に結婚し、離縁したのだそうだ。

「うちの家系じゃ、うなじに三ツ黒子の子は不義の証だからさ」

 怪談話よろしく彼女は言った。私のうなじにはオリオンの三ツ星のように並んだ黒子があったからだ。母はその言い伝えを気にしたのか、父が亡くなるまで私に髪を結ばせなかった。

 そんなことを思い出していると、夫と出ていた娘が帰ってきた。暑かったのか、娘はしきりに髪をかきあげている。

「だめよ、髪をあげたりしちゃあ」

 私はそっと、彼女の髪をうなじになでおろした。

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