お題【捨てる】泉の神

 私は泉に手を合わせた。泉の神に願えば、大切なものを代償に叶うという噂を聞いたのだ。

「コンクールで一位になれるなら、大切なものを捨てる覚悟があるの…!」

 まさか命までは取られないだろう。今回のコンクールには留学がかかっていた。私の人生を左右するコンクールだといっても過言ではない。

 なんなら魂くらいは売っても構わない、とまで思いつめていた。悪魔に魂を売ったといわれた音楽家もいたことだし。…そう、願っている相手は、神どころか悪魔なのかもしれない。それでも…。

(聞き届けた)

「えっ…?」


 私はコンクールで優勝した。しかし留学の座は辞退した。私はすっかり、音楽への情熱を失っていたのだ。

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