お題【道/路】 迷子

 俺も迷子になったことあるよ。近所で突然帰り道がわからなくなって泣いてたら、知らないお兄さんが声をかけてくれた。

 よくわからん話の後に名前を聞かれて、俺「はーとちゃん」って答えた。俺、はるとってんだけど、デコにハート型のあざがあるのな。子どもの頃ははーとって名前だと思ってたの。

 手を引かれて歩いてたらさ、いつもの道が曲がり角の向こうに見えた。俺、喜んで走ったの。振り向いたら、お兄さんはいなかったんだ。不思議だろ。


 で、お前はどこから来たの。名前は?


 はーとちゃん。


 そう言うと、迷子は走り出した。角の手前でこちらを向くそぶりをみせ、煙のように消えた。

 振り向く寸前、風が迷子の前髪を揺らし、その額を僕に見せた。

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