お題【花】働く者

 僕はずっと彼女を見ていた。

 主が彼女をかいがいしく世話をするさまを、その脇に控えて見上げていた。

 いつまでも眺めていたい。彼女の蕾が膨らみ、やがて花開くさまを。

 けれど主がそれを許さなかった。主は私に花を切るよう命じた。うるわしく咲いたばかりの彼女を。

 華奢なその茎を、私は歯で噛みちぎる。

 私は主の剪定ばさみだった。

 主は落ちた彼女を飾ることすらしない。

「良いのです。私が失われることで、残った花が大きな実をつけるのですから…」

 それが、彼女の最後の声だった。


 秋、彼女のいた枝は、赤い林檎の実をつけた。大きな大きな、赤い実だった。

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