お前たちの思惑通りには、決していかせはしない

「残るは、あなただけよ、メリュジーヌ!」

 アンが、メリュジーヌを追い詰めた。


「おのれ貴様、最後まで我の邪魔をするか!」

 最後の一人となったメリュジーヌが、苦し紛れに攻め込む。


 だが、アンはものともせず、攻撃を弾く。


「ぬうう!」

 メリュジーヌのサーベルが、紫に輝き出した。


「クラウ・ソラス級の魔剣など、魔王バロールの前では!」

 バロールの憎悪を増大させたような剣をメリュジーヌは振るう。


 暗黒に満ちた攻撃を、アンは幾度も防いだ。


「なぜだ!」


「お手々がお留守よ、メリュジーヌ。随分と弱っているわね」

 今のアンには、メリュジーヌの数手先すら容易く察知できる。


「黙れ王妃!」

 強がってはいるが、メリュジーヌは、肩で息をしていた。


「大方、タイムスリップで、力を使い果たしたのでしょう」


 アンがいない時代を狙って跳んだらしい。

 けれど、アンも同じく飛び込んだせいで、座標が狂ったのだ。


 バロールの瞳を傷つけたことも、影響しているだろう。

 全ての力を出し切って調整したのが、今の時代だったのである。


「バロール復活に固執しすぎたわね。おとなしく元の時代で戦っていたら、勝機はあったかもしれないのに」


 それでも、アンは勝っていた。

 邪悪な心なんぞに、アンは負けたりなどしない。


「こしゃくな、王妃め!」

 メリュジーヌが、サーベルで斬りかかる。


「我が前に真なる姿を示せ、クラウ・ソラス!」

 アンはクラウ・ソラスを発動させた。


 クラウ・ソラスと、バロールのサーベルが鍔迫り合いになる。


「我はメリュジーヌ! 我はフランスを、ケルトを闇へと染める存在! フランスの国民をすべて生け贄に捧げ、やがて我自らが、魔王バロールとなろうぞ!」


「あなたたちの思い通りになど、させないわ!」


 両者が弾かれ、直後、壮絶な撃ち合いとなった。防御など考えない斬り合い。


 撃ち合いのさなか、メリュジーヌが尾でアンの腹を貫こうとした。


 アンは尾を切り落とす。


「があああ!」

 だが、それは捨て身の罠だった。


 サーベルが、アンのガードを弾く。アンの心臓が、ガラ空きになった。


「もらった! 死ね、ブルターニュの雌犬!」

 渾身の突きを、メリュジーヌが繰り出す。


 アンは無理な体勢から、大剣でサーベルを滑らせ、剣の攻撃をさばいた。


「なんと、陰流だと!?」


 イコこと、愛洲移香斎の得意とする、回避術だ。


「あなたの敗因は、たった一人ですべてを背負ったことよ! 私には、仲間がいる! 自分しか信じない人間に、明日なんて背負えない!」


 クラウ・ソラスが、紫に染まったサーベルを弾き飛ばす。


 メリュジーヌのサーベルが、宙を舞った。





成敗ピュニール!」






 アンの剣が、メリュジーヌを肩から切り裂く。


 叩き込んだケルトの光が、メリュジーヌの体内を突き破りはじめる。


「またしても、フランスにしてやられるのかぁ!」


 メリュジーヌは断末魔の叫びを上げて、爆発した。



 あとは、何も残っていない。

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