フランス国民よ、余の顔を忘れたか!

 そして、現在。




「バッキャロー! アンが死ぬワケねーだろ!」

 カップルの男性の方が、泣き出してしまった。

 今まで犬山の話なんぞただの妄想だと言っていたのに。




「でも、アンは敵の攻撃を受けて、メリュジーヌと奈落に落ちちゃったじゃん。どうなっちゃうの」





「それはですね……あれ?」

 タブレットを操作する犬山の手が止まった。






「どうして? 何も載っていない! アン・ド・ブルターニュのその後が!」




 いくら資料ページを漁っても、アンとメリュジーヌの決着は書かれていない。




 史実だと、アンの方が勝つとなっているはず。しかし、どこにも記述がなかった。





「なぜなの? まだ、決着が着いていないからなの?」






 ――ふふ、決まっておろう。これから我による、フランスの大破壊が始まるからだ!






 ナント上空に暗雲が立ちこめ、辺りが暗くなる。


 空には、血の色をした瞳が、太陽に成り代わるが如く輝いていた。


「あれは、バロールの瞳!」

 犬山がカップルをかばう。


「ふん、本来ならば予言通り、一九九九年にタイムスリップするはずだったが、二〇年ほどズレてしまったか。まあよい。バロールに血を捧げれば同じことよ!」


 バロールの瞳の奥から、龍の羽根を生やした女性が、犬山たちの前に舞い降りる。


「ひいいい、なんだあいつは!?」

 男性の方が、腰を抜かす。

「あの人、空を飛んでるよ!」

 女性の方が、上空に飛んでいる化物を指さした。


「あの女性は、メリュジーヌです! どうしてこの時代に!」


「この時代には、アン・ド・ブルターニュはいないからだ! これで邪魔者はいない! 暴れてやる!」

 メリュジーヌが、カップルたちに向けてサーベルを向けた。


「ひいい!」

 カップルの男が、後ずさる。


 黒いローブを着た集団に、犬山とカップルは囲まれてしまった。


「そうだ、あがけ! 怯えるがいい! 我が神バロールに血を捧げよ!」












 

――そうはいかないわ












「なにい!?」


 驚くメリュジーヌの眼前に、雷が落ちた。


 落雷が起きたかと思えば、アンの銅像がひとりでに動き出す。


 いや、銅像などではなかった。金色の髪が風になびき、手には銀の剣が。



 アン・ド・ブルターニュその人が、この時代に舞い降りたのだ。




「ここにいる全てのフランス国民よ、余の顔を忘れたか!」





 アンの怒号によって、メリュジーヌ以外の全員が、ひざまずく。


 観光客も含め、全員がだ。


「ははー!」

 犬山の側にいたカップルたちも、土下座してアンに頭を下げる。



「まさか、アン・ド・ブルターニュだと!」


「メリュジーヌ。当時のフランスだけならまだしも、現代を生きる人々も苦しめる悪行! 許すわけにはいかぬ!」


「貴様に許しを請うつもりなど、毛頭ない! たった一人で何ができる!」


 メリュジーヌの発言によって、ローブの者たちが正気を取り戻す。


「やれ、今度こそ地獄に送ってやる!」

 アンは、銀の剣を振った。チャキッと音を鳴らす。

 

 一斉に黒ずくめたちが、アンに飛びかかった。


 だが、謎の雷撃によって、全員が撃ち落とされる。


 攻撃したのは、犬山だった。


「え、犬山さん?」



「バレちゃいましたか。そうです。私は、アンの子孫なんですよ」

 犬山の頭に、犬の耳が。


 彼女はアンが産んだ異種族の子孫である。



「で、現代を生きる魔法使いに弟子入りしてですね」


「えらい設定が飛ぶね」


「そうでもありませんよ。その魔法使いは、さんざん物語に出てきたエルフですから」


 高齢となったリザ・ジョコンダに、犬山は育てられた。


 辺りを見渡すと、リザに弟子入りしたギルドのメンバーらが、黒ずくめたちを倒している。

 

 彼らは人知れず世間に紛れ、バロール教団と戦ってきた。

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