逆転の秘策

 ザコを蹴散らしながら、アンはリザの作戦を見守る。

「そうはいくか!」


 メリュジーヌが、龍の翼をはためかた。

 バルコニーから飛び上がり、リザが飛ばした霊剣に手を伸ばす。

 だが、刃と化した竜巻に阻まれた。


「こうなれば、そちらが攻撃してこぬなら、こうしてくれる!」

 業を煮やしたメリュジーヌは、リザに直接攻撃を仕掛ける。

 急降下して、サーベルでリザを斬りかかった。


「ちい!」

 剣は届かない。

 だが、メリュジーヌにとってはそれで十分だろう。


 リザが体勢を崩し、竜巻の勢いが弱まる。


 メルツィだけでは、レミ教授の相手は困難だ。

 武器のないイコでは、レミ教授を押さえ込むことすら難しい。


 レオが銃を放ち、ジャネットがクナイを飛ばす。

 だが、メリュジーヌには当たらない。


 その気になれば、アンは銀の剣を覚醒させ、飛び道具を撃つことが可能だ。

 しかし、力は温存しておきたい。

 当たるという保証もなかった。


 だが、アンには秘策がある。

 ベリー女公からもらった、ヴィーヴルの力が。


「ははは! 追ってこられまい!」

 メリュジーヌは、完全に勝利を確信している。


「それはどうかしら? それ!」

 ザコをはね飛ばしながら、アンがゾウの肌を撫でた。


「そんな太い身体で何ができる! おとなしく破滅を受け入れよ!」

「フランスは、私は負けないわ!」


 伝史聖獣が、雄叫びを上げる。


 ゾウが耳を翼代わりにして、高く飛び上がった。

 飛行能力を手に入れたゾウの鼻が、龍の首へと姿を変える。

 足には爪まで伸びた。


 龍の背にまたがって、アンはメリュジーヌを追い回す。


「なにい!?」

 メリュジーヌも、スピードを上げる。だが、すぐに追いつかれ、焦りの色を見せた。


「この力は……そうか、ベリー公の仕業だな? あの忌々しい小娘が! いい子ぶりおって!」

「そのいい子ぶった女に、あなたは負けるのよ!」 


 アンはクラウ・ソラスで、メリュジーヌの行く手を遮る。


 だが、アンの狙いは彼女ではない。イコの剣である。


「受け取りなよ、アン!」

 リザが魔力を上げて、竜巻の威力を高めた。


 竜巻で浮き上がった剣を、アンは掴む。

 伝史聖獣を駆って、空に浮かぶ瞳へ突撃する。


「地獄に帰りなさい、バロール!」


 アンは渾身の力を込めて、バロールの瞳を串刺しにした。

 ブヨブヨした薄気味悪い感触が、刀越しに伝わってくる。


 怨念の籠もったうなり声を上げて、バロールの瞳が閉じていった。


 目から流れていた粘液の勢いが収まる。



「しまった!」

 レミ教授の羽根が、しぼんでいく。弱体化に成功したのだ。


 バロールの瞳から、もう魔物は発生しない。

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