最後の晩餐

 アンは、クロードの入学祝いと称して、パーティを開いた。


 会場に選んだ場所は、イコの屋形船である。

 来場者が多いので、港にもテーブルを配置した。


 炭火で熱した石の上で、串に刺した肉や魚介を焼く。

 イコの親友であるバスコ・ダ・ガマが、ライバルのコロンブスから教わった調理法らしい。


「みんな、今日は楽しんでいってね」

 来席者のテーブルを、アンは次々と回っていった。


「よかったッスね。今日は美味しいご飯をいっぱい食べられるッスよ」

 ジャネット・カプロッティが、兄弟たちに食べ物をよそう。


「あなたの料理だって、日を追うごとにおいしくなっているじゃないの」

「でも、ちゃんとしたお店で食べるのが合理的ってもんッスよ」

 いかにもジャネットらしい意見だ。 


「はいメルツィ先生、あーん」

「あ、あーん」


 ローザが、メルツィにおにぎりを食べさせている。

 もちろん、ローザの手作りだ。


 仲睦まじそうなので、アンは彼らには話しかけないでおく。


「ぐぬぬ、アン殿、あやつを斬ってもよろしいか? 事案でござる!」

 火の番をしているイコが、血涙を流しながらその様子を眺めていた。


「おめでたい席で刃傷沙汰なんて、やめてよね」

 ナント産のシードルを煽り、アンはイコのおでこをペチンと叩く。


「いつの間に、あんな仲になったの」

「なんでも、忙しい拙者の代わりに、メルツィ殿はローザの稽古をつけているらしく」


 訓練の要求は、ローザが言い出したらしい。

 学校ではクロードに守られっぱなしなので、自分がもっと強くならなければ、と思ったためだとか。


「跡継ぎ候補ができたからいいじゃない」

「アン殿も、妻と同じことをおっしゃる!」

「まあまあ、あなたも飲みなさいな」


 そう言い残し、アンは一番盛り上がっている席へ。 



「ボクちゃんも参加してよかったの? アンジェリーヌちゃん」


 モリエールたちも、パーティに呼んだ。

 言葉こそ遠慮がちだが、彼らが一番飲み食いている。


「いいのよ。どうせ私の素性なんて、とっくに知っていたんでしょ?」


「そうよ。だってリザったら、めちゃ分かりやすいんですもの」


 リザの様子がおかしいと思ったため、部下に調べさせたのだという。


 モンスターがパリを襲撃してきたとき、アンが国王と親しくしていたのを見て、確信したらしい。


「私の素性が知られたら、あなたたちにも危害が及ぶと思ったの」

「ご心配なく。そんなことくらいで潰れるようなギルドじゃないから」


 モリエールが言うと、虚勢に聞こえないから不思議だ。


「でも、ボクたちにとって、あなたはずっとアンジェリーヌちゃんよ。これからもずっと」


「ありがとう、ギルマス。みんなもありがとう。パリが平和なのは、あなたたちのおかげよ」


「アンジェリーヌちゃんこそ、悪党を退治してくれた恩は忘れないわ」


「今日は楽しんでいってね!」 


 アンは次に、愛娘たちの元へ。

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