メリュジーヌの憎しみ
「足が動かないことを理由に、離婚を突きつけられたと、資料には書かれていました」
「真相をお見せ致しましょう」
ベリー公は、修道服の裾をまくり上げた。
「ちょっと、そんな趣味はないのだけれど?」
予想外の展開に、アンは戸惑う
まさか、ブルージュくんだりまで来て、百合的なハプニングに出くわすと思っていなかった。
「女同士でしょ? 何を照れることがございまして?」
そう言われても、とアンは思いながら、恐る恐る細目でベリー公を見る。
ベリー公の皮膚に、龍の鱗があるのが見えた。
「あなたは、まさか……」
「お察しの通り、離婚の真相は、わたしがヴィーヴルだからです」
剣を取ろうとして、思いとどまる。
アンにはどうしても、ベリー公が敵だとは思えなかった。
「ルイ王がわたしを見初めたとき、彼はわたしをヴィーヴルと思っていませんでした」
本来、ヴィーヴルは王族や貴族と敵対していない。
だが、はるか昔に、ヴィーヴルの一人メリュジーヌが、フランスに反旗を翻した。
退治されたものの、メリュジーヌのせいで、フランス国はヴィーヴルへの風当たりが強い。
ヴィーヴルが王族に嫁いだことは、大スキャンダルになる。
前夫ルイは、ベリー公に理解は示してくれた。だが、ベリー公との肉体的接触を避けるように。
ベリー公は身を隠す他なかった。
「結局、便宜上離婚をして、わたしに女公の地位まで授けてくれました。わたしとの愛がどこまで本気だったのかは、最後まで聞けませんでしたが」
悲しげな様子で、ベリー公は語る。
「しかし、バロール教団が現れた」
「後ろ盾を失い、このままではフランスを守れないと思いました。そこで、冒険者ギルドを結成し、フランスを脅かす不浄の者たちを監視しようと」
後にフランス国王を脅して請求した高額の慰謝料は、むしろ国民を騙すためのブラフである。
彼女は喜んで、汚れ役を買って出た。
「王も受け入れてくれました。まさか、あなたバロールと戦っていることまでは知りませんでしたが」
「ケルト人として、バロール打倒は使命よ」
「頼もしい限りです。けれども、メリュジーヌにとっては、フランス全土が破壊の対象なのです」
「どうしてよ? あの女の仇はポワティエよ。バロールは関係ないはずだけれど」
その昔、メリュジーヌはナントの隣にあるポワティエに嫁いでいる。けれど、化け物の姿を見られて去って行った。
本にも載っている話だ。
「それだけが、原因ではないのです。彼女は、バロールとも密接に関係しています」
「どういうこと?」
「メリュジーヌは、古代龍とバロールの血を引き継いでいます」
ヴィーヴルは、古代龍の子孫である。
バロールはフランスに復讐するために、古代龍の一体に自身の分身を混ぜた。
彼女は邪龍と呼ばれ、大天使ミカエルによって退治される。
母である邪龍を倒したキリスト教も、父バロールを倒したケルトも、メリュジーヌにとっては敵なのだ。
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