ギルド総元締め ベリー公

 パリ炎上の翌日、アンは暇をもらった。国王の指示である。


 あれからというもの、教団の残党共が面白いように捕まっていった。

 無敵かと思われたバロール教団も、疲弊しているのだ。


 なにより、国王の兵力がものを言った。

 何ヶ月もかかった教団探しが、たった一日で結果を出している。


「強いヤツらは姐さんがやっつけちまったせいッスよ」と、ジャネットは励ましてくれた。


 リザやレオ、モリエールなどの冒険者は、国王の指示でいまだに教団と戦っているらしい。


 けれども、イコなどの一般人に、指示は出ていなかった。 


 アンは今、師ジャンヌと共に、パリの南にある都、ブルージュへ向かっている。


「まさか、あなたとまた会えるなんて思わなかったわ。師ジャンヌ」

 馬車を走らせながら、アンは師ジャンヌと言葉を交わす。


 ニセのジャンヌ・ダルクこと、ジャンヌ・デ・ザルモワーズ。老婆ではあるが、筋肉の質感は兵隊すら凌駕する。



 馬車がたった今、本物のジャンヌ・ダルクが解放したオルレアンを通り過ぎた。



「あなただったのね、フランス全土の冒険者ギルドをとりまとめているのは」


「そうさ。なんだったら、あんたを鍛え直してやるけどね」


「その時間がないわ。早くスポンサーに会わせてちょうだい」


 アンがおとなしくザルモワーズについてきているのは、ギルドの総元締めに会わせてくれるというからだ。


「メリュジーヌと戦うなら、アンは絶対に、総元締めと会わなければいけない」と、ザルモワーズから言われたのである。


 話している間に、馬車がベリー領内に入った。首都、ブルージュに着く。


 ザルモワーズの手引きで、一番大きな礼拝堂へ招かれる。


 長イスが、ズラリと並んでいた。


 一番前の席に、シスター服を着た女性が座っている。


「連れてきたよ」


 ザルモワーズに呼びかけられ、シスター服の女性が立ち上がった。


「お待ちしておりましたよ。アン・ド・ブルターニュ」


 そこにいたのは、ベリー女公だった。

 彼女は、ルイ一二世の前妻である。また、アンの元夫にして前フランス国王、シャルル八世を弟に持つ。

 


「驚きだわ。冒険者ギルドの元締めが、まさかベリー女公・ジャンヌ・ド・フランスだったとは。ルイ一二世の前のお妃さまが。まあ、それしかないと思っていたけれど」


「鋭い偵察力で」


「フランスを動かせるレベルの貴族と言えば、あなたしか思いつかなかった。また、フランスを愛している人も」


 アンの言葉に、ベリー公は特に反応しない。

「お褒めにあずかり光栄ですわ。アン・ド・ブルターニュ」


 そうでもなかった。


 彼女を見ていると、自分は故郷ナントしか愛していないのだと、見透かされる気がする。


 彼女の純粋さは、アンをそんな錯覚に陥らせた。

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