ルイ12世との再会

「クロード!」

 アンは乗客の中から、見覚えのある、小さな天使を見つけた。


「お母さま!」

「ああクロード、よかったわクロード!」


 胸に飛び込んできたクロードを、アンは抱きしめる。


「でも、どうして?」


「クロード様の機転ですぞ。屋敷が持たないと思った途端、イコ殿の店を動かそうと言い出したのですわい」

 アンの疑問に、運転手のレオが答えた。


「これにて、奇跡的に生還できましたのです。いやはや、さすがにもうダメかと思いましたぞ」


 アンは脱力し、倒れそうになる。


「お気を確かに」

 メルツィが、アンを後ろから抱き留めた。


 だが、自分一人の力では、フランスを守れなかっただろう。

 その事実は、アンに重くのし掛かった。



「ご無事でしたか、殿下」

 茶色い馬で駆けつけたオルガが、アンの無事を確認する。

「あなたも、無事だったのね?」


「はい。それよりも殿下、ココは危険です。急いで王宮へ」


 包囲されてヤケになったモンスターが、アンたちに照準を合わせている。


「ありがとう。でも、みんなを置いていけないわ」


 アンは剣を抜き、迎え撃つ。


 四つ足のモンスターが、アンに食らいつこうとした。


 その瞬間、一頭の白馬が、戦場を駆け抜ける。


さっさと失せろ、ベイビーAu revoir BABY!」

 一人の少年が、馬上からモンスターの眉間を撃ち抜く。

 致命傷を負ったモンスターが、力なく倒れる。


「ルネ!」

 アンは、馬上にルネも確認した。



 ルネは安心した様子で、少年の前方に陣取る。

 ルイが騎乗したまま弾丸を再装填した。


「ちちうえ、十一時の方向」


 手綱を握るルネが指示を出し、「セイヤ!」とルイが銃を撃つ。


ボクのベイビーちゃんに、ごあいさつしてねbonjour à ma petite fille!」


 放たれた弾丸は、斜め方向にいたアンの顔を通り過ぎた。

 アンのすぐ後ろにいた狼男が、心臓を打たれて絶命する。


「ケガはない、アンちゃん?」


 少年のような見た目の男性が、馬を止めて降りた。


「国王陛下」

 メルツィから離れ、アンは国王にひざまずく。


「大丈夫、アンちゃん?」

 少年風の男性が、馬から下りてアンの頬を撫でた。


「どうして、お城にいないの? 心配したよ」


「申し訳ございません」


「無事でよかった」


 続いて、国王はメルツィたちの方に向き直る。


「あなた方が、アンちゃんを助けてくれてたの?」


「いえ、アン・ド・ブルターニュ様に助けられたのは、むしろ我々の方で」

 メルツィが謙遜すると、国王は首を振った。


「全部まで言わなくていいよ。みんな、アンちゃんの助けになってくれたんでしょ? ありがとうね」


「滅相もございません。ところで、なぜそのようなことを?」

 メルツィが疑問を抱くのも分かる。


 アンの事情を、王が知っているはずがない。


「事情は、だいたい把握しているから。この人から話を聞いてさ」


 国王が紹介したのは、黒い馬に乗った老婆だ。


「この人も、手伝ってくれたんだ」


 老婆か付けているアイパッチに、アンは見覚えがあった。


「あなたは、ジャンヌ師匠!」


 この老婆こそ、かつて火あぶりから復活し、アンを鍛えた師匠である。


 人は彼女を、偽ジャンヌ・ダルク、または、ジャンヌ・デ・ザルモワーズと呼んだ。

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