王の帰還

「かたじけない、アン殿」

「ありがとうございます」


 二名の取り巻きは、アンに詫びてモリエールの側に着地する。

 一人は腕や足に切り傷を負い、もう一人はハンマーで内臓をやられていた。


「ちょ、ちょっと、大丈夫なの二人とも?」

 モリエールが、二人に回復魔法をかける。


「天下の冒険者ギルドも、大した腕がないな」

 メリュジーヌが、二人の勇者をあざ笑った。


 二人の敵討ちと、アンは立ち上がる。

 だが、すぐによろめいてしまった。


「連戦なんて無茶です、で……アン殿!」

 一瞬、メルツィはアンを「殿下」と呼ぼうとしたらしい。


「でも、今戦えるのは私だけよ!」


 冒険者ギルド最強の二人さえ退けるほど、メリュジーヌは強かった。アン自らが出るしか。


 そのとき、数発の砲撃音が鳴り響いた。


 砲撃を浴びて、モンスターが消滅していく。


「うてうてーっ! パリをいじめるやつらをやっつけろーっ!」


 この少年声は……ルイ一二世!


 国王が、戦争から帰ってきたのだ。


「邪魔が入ったか!」

 メリュジーヌはパリに背を向ける。


「待ちなさい!」


「今日は挨拶代わりだ。手負いの貴様を殺しても、意味がないからな!」


 振り向きながら、メリュジーヌは背中にドラゴンの羽根を伸ばす。


「いずれフランスに、本格的な攻撃を仕掛ける! それまで待っているがいい!」


 またしても高笑いしながら、メリュジーヌはパリの空に消えていった。


 モンスターも、ウソのように逃げていく。


 パリは、国王の攻撃によって守られたのだ。


 アンは脱力し、倒れそうになる。


「お気を確かに」

 メルツィが、アンを後ろから抱き留めた。



 自分一人の力では、フランスを守れなかっただろう。

 その事実は、アンに重くのし掛かった。


「そうだわ、クロードを!」

 我に返ったアンは、レオの屋敷に向かうべく立ち上がる。


 だが、屋敷は火に包まれていた。



「いやあ、クロードォ!」

 自分を省みず、アンは火の中に飛び込もうとする。


「なりません殿下っ!」



「でも、クロードが、みんなが! ああああああああああっ!」

 火の粉を顔に浴びることすら構わず、アンはその場で泣き崩れた。

 また自分は、子を失うのか。自分は誰も守れないのか、と。



「あのー、姐さん」

 ジャネットが、いつものニヤけ顔をアンに近づけてくる。


「なによ、ほっといてよジャネット!」

 アンはジャネットを突き飛ばそうとした。


「言いづらいんスけど、全員無事ッスよ」

「ウソでしょ? だって炎が!」


「ホラ後ろ」

 ジャネットが、アンを振り向かせる。


 そこには、セーヌ川が流れていた。


 一隻の屋形船が、アンの眼前に止まっている。


 あれはイコの店だ。

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