最終章 Au fil du temps.Courir à travers le ciel.Pour cette star.(時を超えろ、空を駆けろ、この星のため)

復讐のヴィーヴル メリュジーヌ

 モンスターは王宮の騎士やギルドが対処している。

 だが、消火まで手が回らない。


 アンも加勢するが、焼け石に水だった。

 なにより、レミ教授との戦闘による疲労が抜けていない。

 さすがに、クラウ・ソラスを二発放つのは負担が大きかった。


「こっちよ、アンジェリーヌちゃん!」

 建物の影に隠れながら、ギルマスのモリエールが呼びかけてくる。


「ギルマス、いったい何事なの?」


「こっちが聞きたいわよ! あなたたちがいなくなった瞬間、至る所からモンスターが湧いてきたの!」


 おかしい。


 自分たちがパリを出た際には、怪物たちの気配などなかったのに。動きも手際が良すぎる。


「殿下、これはもしかすると」

 モリエールに聞かれない程度に、メルツィがささやきかけてきた。


「私たちは、誘導されていた?」


 自分たちが留守をしている間に、パリを占拠しようという魂胆だったか。

 あわよくば同時にアンもこの世から消そうと。



 しかし、予想以上に早く帰ってきたので、魔物たちも焦っている様子である。


 リザやイコが活躍しているのも幸いした。

 しかし、これだけの数をすべて倒すとなると。


「殿下、あれを!」


 パリのほぼ中央地点を、メルツィが指さす。あそこは、ノートルダム政道がある場所だ。

 聖堂の尖塔、その頂点に、女が立っていた。魔物を誘導しているように見える。


 大聖堂のある、シテ島へ向かう。



「あの女です! あの女が、レミ教授を復活させたと!」



 純白のドレスを着た女が、こちらに気づく。放つ憎悪を隠そうともしない。



「あなたは何者なの?」

「我が名はヴィーヴルのひとり、メリュジーヌ! ブルターニュの女よ、お前の命、必ずもらい受ける!」


 メリュジーヌ、伝説級のヴィーヴルではないか。

 なるほど。彼女はフランス貴族に捨てられたヴィーヴルだ。フランスを恨んでいてもおかしくない。


 モリエールの取り巻きが、跳躍してドレスの女に肉薄する。

 二人とも、ドロテを退けるほどの手練れだ。


 一人が両手剣を振り下ろす。


 もう一人がハンマーを投げつけた。


 しかし、メリュジーヌはサーベルの一振りで、二人の攻撃を軽々と退ける。


 ナタ状の両手剣は、根元から斬り捨てられた。

 

 ハンマーはサーベルにつつかれ、逆に持ち主の腹にめり込んだ。


 どちらも重い武器のはず。とてもサーベルなどでは攻撃を弾けない。

 まして二人は、パリが誇る最強の戦士だ。


 なのに、メリュジーヌは二人をたやすく倒した。まるで遊んであげているのように。


「危ない!」

 アンは、落ちてくる二人を受け止めた。

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