レミ教授の素性

「ねえ、ジャン・ド・サン=レミ教授について、聞いたことはないかしら? その人、娘の通っている学園で働いているみたいなの」


 不思議そうな顔で、モリエールがアンの顔を覗き込んだ。

「あなた、お嬢さんをあの学校に通わせているの?」


「そうだけど?」


「あなた、そんなにお金持ちなの? あの学校の学費、相当高いわよ。冒険者で賄えるのかしら?」


 しまった、思わず、真実を語ってしまった。

 没落貴族設定がガバガバに。


「あんた、ひょっとして怪しいバイトなんてしてるんじゃないでしょうね? ダメよアンちゃん! 自分の身体は大事にしないと!」

 何を誤解しているのか、モリエールが不要な心配をする。


「どうもありがとう。でも心配なさらないで」




「人妻だって足下見られちゃダメ!」




「ん?」



 妙な方向に話が進んでいる気がした。



「いいこと、貴族も兵士も、所詮はただのオトコよ。腰に細長い性欲をぶら下げてるだけの存在でしかないわ」



 それは、主人で痛いほど知っている。



「だからといって、枯れるまで吸い上げたりなんかしたらダメよ。あっという間に飽きられるわ。テクを使い切ると、もっと若い子に目が入ってしまうの」


「へ、へえ……」


「その気にさせつつ、絞りきらずに焦らすのよ。全部をさらけ出さないこと。分かった?」



 応援しているのか、率先して誘導しているのか。

 どちらかにしてもらいたい。


「でもなんで、そんな危ないバイトなんか始めたの?」

「誤解しないでね。身体は売ってないから」

「それならいいけれど。借金でもこさえてたりしたら」


「平気よ、お金はあるから。単に、いい学校に通わせたかったのよ! オホホ」

 口を押さえて、顔の引きつりを戻す。


「そうなの? 教育熱心なのね。まあ、あの学校なら当たりよ。きっといい子に育つでしょ」


「ええきっとそうよ。オホホ」

 笑ってごまかす。


 あやうくアンの素性が知られるところだった。





「でもヘンね。教授はもう、亡くなっているわよ?」




「いつ!?」

「去年よ。一五〇四年」


 ウソに違いない。


「本気で言ってるの?」


「当然よ。だってレミ教授のお葬式をあげたの、ボクちゃんだもの? ご家族に頼まれたんだから」


 教授の故郷だという小さな村で、ひっそりと葬儀を上げたという。


「その事実を知っている人は?」



「ご家族だけよ。密葬にしてって頼まれたから」



 それでは、学校にいるというレミ教授は、いったい何者だ?


「アン、ちょっといいか?」

 同行していたリザが、アンの耳に語りかける。


「去年っていえば、バロール教団が活発化した時期と合致するよ」


 リザの話は、合点がいく。


「仮にだよ。レミ教授を誰かが蘇らせたのだとしたら?」

「復活した教授が、学校に潜伏していると?」

「そうなる。多分だけど、ドロテみたいな子を作る素材を探してるんじゃないかな」


 しかし、新任の教師にバレてしまった。

 仕方なく殺してしまう。

 証拠の品を取られたが、置いておくしかなかった。


 以上が、リザの推理だ。


「バロール教団を作ったのは、レミ教授を復活させた人物ということね」

「レミ教授は知恵を貸しただけ。でも危険な相手なのは間違いないよ!」


 二人は、学園に向かった。

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