アン、調査開始
一方、アンはリザと共に、殺人事件の捜査に出ていた。
被害者は、一般層出身の女性である。
若くて未婚、交際経験もない。
彼女を知る人物を当たったが、恨まれるような人間ではないという。
怨恨の線は考えにくい。
被害者は、心臓を鋭利な刃物でひと突きされている。
間違いなくプロの犯行だ。
学園の敷地内で死んだことが引っかかる。
やはり、学校関係者か。
だが、学校側は容疑を否定している。
学び舎で人殺しなどあり得ないというのが、学校側の主張だ。
遺族の母親である婦人に話を聞く。
我が子を殺害されて生気を失ったのか、婦人はまるで老婆のように痩せこけていた。
「今年になって初めて教室を受け持つんだと、あの子は喜んでおりました」
生前の娘を思い出したのか、婦人は涙ぐむ。
その女性は特に素行不良な点もなく、事件当日も特に問題は起こしていない。
極めて優秀な先生だったという。
「学校の関係者に聞いても、何も証拠が出ず、冒険者ギルドを頼ったのです。お願いです! 娘の敵を!」
婦人を慰めつつ、アンは話を進めた。
「失礼ですが、お嬢様は特定の宗教に興味をおお持ちだったなど、ございませんでしたか?」
「いえ。神様の他に祈る相手などおりますまい」
被害者の部屋を見せてもらう。
特に変わった形跡はない。
襲われる痕跡など、どこにも見当たらなかった。
「誰かの秘密を知ってしまった感じは?」
婦人は首を振る。だが、すぐにハッとなった顔に。
「そういえば、発見されたときの死に顔は、驚きに満ちた顔でした」
記憶を引き出すように、時々頭を抱えながら、婦人は告げる。
「あの子が絶対にしないような、恐ろしいモノを見た様子に見えました。相当ヒドい目に遭ったのでしょう」
また、婦人は崩れ落ち、弱々しく泣き出した。
「ありがとうございました」
何の収穫も得られず、ただ婦人を慰めただけである。
「ギルドに聞いてみましょう」
モリエールなら、何か掴んでいるかも。
酒場に入ると、ちょうどモリエールがリュートを奏でていた。
「アンちゃんじゃない。一杯どう?」
モリエールはアンに気づくと、演奏をやめた。いつものオネエ口調で、アンの側にグラスを置く。
「結構よ。それより、殺人事件のことで何か情報はない?」
「あるわよ」
言って、モリエールは一枚の紙切れを差し出す。何かの絵が描かれていた。
「こういった形の胸章を、被害者は掴んでいたらしいわ」
しかし、どの死霊を調べても出てこず、事件を担当している役場は困り果てているらしい。
アンは、この紋章をよく知っていた。自分たちが散々倒してきた貴族たちが、崇拝している教団の紋章だから。
「ヴィーヴルの瞳!」
「やはり、犯人はバロール教団ね!」
そうなると、学園内にはバロール教団が潜んでいると?
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