レミ教授との対面!

「いただきますわ!」

 クロードが喜ぶ。どうやら、学食で済ませようと思っていたらしい。



 自分で食事を用意しても、冷めてしまって美味しくない。



 だが、ローザが持ってきた弁当は、遠目から見ても温かそうである。


「主よ、恵みに感謝します。はむ」

「いただきます」


 クロードが簡単に天へ祈り、ローザは両手を合わせただけで祈りを終えた。


 米を食んだクロードが、感動に打ち震えている。

 一心不乱に米の塊をかき込んだ。

「一粒一粒が生きていると、実感できますわ!」



 あれは絶対にうまい。


 コンブという未知の食材は気になるが、強烈な潮の香りが、うまいと主張していた。米の塊などベチャベチャなのでは、と危惧していたが、あそこまで固められるのか。

 

 おそらく、ニホン独特の調理法があるのだろう。



「そう言っていただけて何よりです」

「また、明日も作ってらして!」

「気に入っていただけたのなら、もちろん!」


 すっかり、クロードはローザの料理に夢中になってしまったらしい。


「ごちそうさま。何かお礼をしなくては」

 再び手を洗い、クロードはローザにハンカチを差し出す。 


「そんな。お礼なんて」


 恐れ多いと思ったのか、ローザはハンカチを受け取らない。

 自分の服で手を拭いた。


「では、このハンカチをお渡し致しますわ」

 クロードは、ローザに自前のハンカチを手渡した。


「あげたんですもの。返さなくて結構よ」

「ありがとうございます。大切にします!」


「もし、文句をいう人がいたら、わたくしにおっしゃい。とっちめますわ」


「それはご勘弁を」





 母親に似て、たくましい女性である。

 だが、その生き方は多くのヘイトも生むだろう。




 その後は、何もトラブルなく終わった。

 あとは学内の調査を残すのみ。

 レミ教授はどこにいるのか。


 廊下を歩いていると、一人の老人が目にとまった。


 あの男は? 保健室から出てきたから、養護教諭か。


 目が細い。すり足で移動し、枯れ枝のような手足だ。なのに、他を寄せ付けない風格がある。


 なにより、強烈な気配を孕んでいた。


「いかがなされた?」

 すれ違い様に、男から声をかけられる。


「はい?」

 思わずメルツィも、対応に困った。


「何か、私にご用でも? それとも、薬品の匂いでも気になされましたかな?」


「あ、いえ。ジロジロ見てしまって申し訳ない」


「そうですか。では、ごきげんよう」


 男が去ろうとしている。

 このチャンスを、逃してはならない。


「えっと、この学校で体育を教えることになりました、フランチェスコ・メルツィです」


「ほほう。では、あなたが新任の」


「はい」


「ジャン・ド・サン=レミと申します。ここの養護教諭を務めております」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る