ローザのおにぎり
「何をしていらっしゃいますの? お金が欲しいのでしょう!」
口調も強くなった。
「いえ、もう結構ですわ」
「いいから拾いなさい!」
萎縮した学友の手首を、クロードは掴んだ。強引に、水たまりの中へ手を突っ込ませる。
「同じお金でしょう? どうしてあの子のお金は取り上げることができて、水の中に落ちたお金は拾えませんの!?」
「やめて……」
小さく、いじめっ子の少女が悲鳴を上げた。
「やめろですって? じゃあ、どうしてローザさんにいやがらせなんてなさいますの!? 身分違いがそんなにいけませんの!?」
クロードは水たまりの中に、学友たちを転倒させた。自ら泥に手を突っ込んで、袋を掴む。
「いいこと? わたくしたちは、平民たちが働いて、額に汗して手にしたお金を分けてもらって生きています! 汗をいただいているのです。でも、お金には分け隔てはございませんわ! そんなことも分かりませんの!?」
クロードは、銅貨の入った袋をローザに返した。
「わたくしの行いが、絶対的な正義だなんて言いません。ですが、弱い者からお金をせしめてもよいなんて考えなど、絶対に悪いことですわ! それをご理解なさい!」
クロードは、生徒たちを睨みつけて、追っ払う。
「待ちなさい!」
クロードは、いじめっ子たちを呼び止めた。手持ちの銀貨を、彼女たちの顔に投げつける。
「クリーニング代よ。取っておきなさい!」
女子生徒たちが、怯えた顔をしながら逃げていく。
「クロードさま、ありが」
「申し訳ありませんわ。お嫌な思いをされたでしょう」
ハンカチで、まずローザの顔を拭いて上げる。
自分のことを後回しにして。
感謝の言葉すら、ローザには言わせない。
自分だって悪いことをしたのだと、ちゃんと自覚しているのだろう。
「先日はありがとう。いつも、先生と組まされていたので、新鮮でしたわ」
水場で手を洗いながら、クロードがローザと言葉を交わす。
「いえ、わたしなんかが差し出がましくして、あの方たちも不快だったのでしょう」
「それで、目の敵にされたのですね。ご安心なさい。わたくしが、あなたの味方になります。なんでもおっしゃいな」
「ありがとうございます。そうだ。お弁当食べませんか?」
ローザが、背負っていたカバンを降ろした。
中には、竹の葉でできた包みを出して、その場で広げる。
コメを三角状に握った料理である。
コメの温かい香りと、海藻の強い匂いが漂う。
昼食を終えたばかりなのに、メルツィは腹を刺激された。
「わあ、和風ですわ!」
「塩コンブのおにぎりです。もしよろしければと、二人分作ってきたんです」
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