クロード、いじめっ子をシバく!

 昼休み、メルツィは庭の樹の下で、買ってきた串焼きを楽しむ。


 今回の授業は、信じられないくらいにうまくいった。


 初日で驚かせて以降、生徒たちはおとなしく授業を受けてくれている。


 セクハラで訴えられてしまうかも、と思っていたが、懐いているようだ。自分の知っている教科だけ教えればいいので、プレッシャーがないのもあるが。


「どうして平民が、貴族の通う学校に通っていらっしゃるの?」

 体育館裏で、生徒の言い争う声が聞こえてきた。


 裏手に回ると、三人の女子生徒が、一人の平民を責めたてているではないか。


 確か、平民の少女は名をローザ・アイスといったか。イコの娘だ。 


 加勢すべきか様子をうかがう。


「わ、わたしは、お侍の娘です。いずれは、人に剣を教える。だから、勉強しなさいって」

「人に剣を教えて、お金をいただくの?」


「はい。そうです」

 気弱そうながらも、ローザはハッキリと受け答えをしている。


「あなた、バイトもしているでしょ?」

「おうちがお店だから、お手伝いを」

「だったら、お金もたくさん持ってるんじゃありませんコト?」

「そんなこと」


 詰め寄られて、ローザは後ろへ歩を進める。

 だが、取り巻きたちに囲まれてしまう。



「ウソはいけないわ。見せてみなさい」

「持ってません」


 後ずさりした拍子に、ローザのポケットから小さな袋が落ちた。

 

 すかさず、取り巻きが袋を拾う。


 中には、小さな銅貨が入っていた。



「ほら、あるじゃごさいませんの。これは、我々貴族が、あなた方平民を見守るお駄賃として、お預かりしますわ」

「それは学費です!」

「なら、またバイトしてお稼ぎあそばせ」


 カツアゲだ。


 悔しさからだろう。ローザの顔が引きつる。


 貴族のいいなりになって、それでも逆らえない。



 いよいよ、出番か。


 しかし、救世主は意外なところから現れた。


「何をしていますの?」

 アン王妃の娘、クロード・フランス姫殿下である。

 彼女も、ローザと同じクラスだ。


「ひめさま」


「下がっていなさい」

 クロード姫は、ローザを自分の背後に下がらせた。


「あなた方、この子からお金を無心しようとさなっていたわね」


「無心だなんて。我々は、平民が余計なお金は持っていても無駄だと思い、有効活用してさしあげようってご相談してましたのよ」


 そうよね? と、少女たちはローザに語りかける。


 ローザはクロードの肩に隠れた。

 肯定も否定もしない。


「そうでしたの」

 ポケットをまさぐり、クロードは銀貨を取り出す。


「そんなにお金が欲しいなら、わたくしが差し上げますわ」

 クロードは、水たまりの中に金を落とした。


「さあ、拾いなさいな」

 鋭い視線を、学友たちに向ける。

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