レミ教授の邪悪

「先生は本当に、貴族と王族が仲良くできるとお思いなの?」

「王族と平民が友達になったんだ。怖がらなくてもいいさ」



 それはきっと、クロードも望んでいることだ。 



「キミたちは、もう帰りなさい。処罰は、そうだな……反省文を書いてきなさい。クロードさんに誠心誠意詫びよう。それと、ローザさんにも」


「ごめんなさい」


 メルツィが促すと、貴族たちは素直に従った。言われたから実行したというより、本気で反省している様子である。


 自分は悪くないのに、ローザも頭を下げた。




「むむ、これは!」




 ローザの頭を撫でた瞬間、レミ教授の顔つきが変わった。

 冷や汗をかいている。


「どうかなさいましたか、教授?」

「出血が、もう」


 クロードの額にあった切り傷が、あっという間に塞がっていた。

 これが、ケルト族の血がもたらす恩恵か。


「なんという」

 レミ教授の顔を覆っていた、善良な教育者という仮面が、一瞬剥がれ落ちた気がした。

 今のレミ教授は、「血に飢えた狂気の科学者」の顔を覗かせている。


「お医者様を呼びましょう、教授」



「いや、もう呼びましたぞい。私の知り合いなのでご安心を」



 直後、ゾロゾロと黒所属の男たちが入り込んできた。


 レミ教授はクロードを抱えて、保健室を出て行く。


「待て!」

 メルツィが後を追うが、黒ずくめに行く手を阻まれた。


「私は先に研究所へ。目撃者の方々も、ご同行願おうか」

 黒ずくめたちが、女生徒たちを羽交い締めにする。


「いやあ、放して!」

 女生徒が悲鳴を上げた。


「おとなしく、ついてきてもらおうか! さもなくば」

 怯えた女生徒たちを、黒ずくめが突きつけてくる。


 生徒を人質に取られ、絶体絶命だ。 

 だが、こんな日の為に、訓練をしてきた。


「ポン!」

 もっとも察しがよかったのが、ローザである。

 自らの腕で黒ずくめの拘束を弾き飛ばし、抜け出す。


 他の生徒たちも、「ポン!」と声を上げて脱出した。


 ただ一人、リーダー格の少女だけが逃げられない。


 ローザたちは、腕を伸ばして拘束を解いた。


 だが、少女は上着を脱ぐように、腕を曲げて抜け出そうとしている。

 それではテコの原理が働かず、悪漢の腕力に勝てない。



「やあ!」

 ローザが、どこからか木製のホウキを持ってきた。

 黒ずくめの手首を打つ。


 黒ずくめが悲鳴を上げ、少女を解放する。


「ありがとう!」

 女生徒が、ローザの後ろに隠れた。


「なんだこいつら?」


「彼女たちは、ボクの生徒さ!」

 腰に付けていた三節棍で、メルツィは黒ずくめたちを昏倒させる。


「みんなは職員室に行って、先生を呼んでくるんだ。その後は、速やかに大人と下校すること。分かったね?」


「はい!」

 女生徒たちが、廊下を駆けていく。


 素直な子たちだ。


 だが、もっとも純粋な子が、フランスの宝が連れ去られた。

 急がねば。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る