和解

 言葉の意味が分からず、貴族たちは困惑の眼差しをメルツィに向けてくる。


「クロードさんは、友達を守ったんだ。ローザさんは、自分を孤独から引っ張り出してくれた。みんなは体育の授業でも、王家であるクロードさんに触れられなかった。王家に粗相をすればタダでは済まないと思ったからだろ?」


「はい」

 貴族らが首を縦に振った。


 いくら貴族と言えど、子どものうちはこんなにも純粋で単純なのだ。

 彼女たちを立派な大人へと育てることこそ、自分たち教育者の役割なのだろう。


 続いて、メルツィはローザに向き直る。


「でも、ローザさんは違った。友達になりたかったからだろ?」


「そうです! この平民は、クロード姫様に取り入ろうとした!」


 メルツィは、「違う」と否定した。


「ローザさんは、ひとりぼっちのクロードさんを、かわいそうだと思っただけなんだ」


「よく分かりませんわ」

 まだ、理解できない年頃らしい。


「一人突っ立っているクロードさんに対して、ローザさんはかわいそうだを感じた。みんなだって分かっていたはずだ。彼女が寂しがっていると」


 しかし、保身のために手を貸さなかった。


 人として当然のことを、ローザはしたまで。だが、勇気がいっただろう。 


 その勇気に、クロードは触れたのだ。


 そこまで言うと、貴族たちは黙り込む。


「わたしたちどうすれば。姫様を傷つけてしまった」

「謝ればいい。そして、こう言うんだ。『お友達になりたい』って」


「そんなの無理よ!」

 だが、貴族の娘たちは怯えきって、メルツィの言葉をまともに受け取ろうとしない。


「許してくれないわ。クロード姫様は、今度こそ私たちを軽蔑する!」


 貴族たちは、全員声を震わせる。


「キミたちは、クロードさんをそこまで信用できない? 王族という得体の知れない看板を打ち立てて、自分たちは安全圏から出ず、ただただ拒絶するのかい?」


 それでは、今までと同じだ。貴族と王族との関係は、一生変わらない。


「クロードさんだって、キミたちを身分が低いとか憎いとかなんて思っていないよ。同じ人間として、接しようと思っているはずだ。話し合えば、分かるはずだよ」


 何もクロードは、この学園にいる女生徒を従わせようなんて思っていない。

 人として悪いことは悪いと示したいだけ。

 本気でいじめっ子を罰したいなら、目の前にいたメルツィにこの全てを言いつけているはず。


 あのときクロードは、メルツィの存在に気づいていた気がする。

 だが、話しかけるなどせず、コトの行く末を見守らせた。

「自分に任せろ」と言わんばかりに。


 事実、彼女は乱暴ながらもその場を納めた。


 暴君とも見えるが、王としての風格があったように思う。

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