バロール教団の黒幕は?

 アンはオルガと共に、レオの屋敷へ向かう。


「いらっしゃいませ!」

 さっそく、ジャネットのきょうだいたちから手厚い歓迎を受けた。


「ちょっとみんな、ちゃんと手を洗うッス」


 キッチンでは、レオの妻となったジャネットがパスタを茹でている。

 いかにも新妻然としていて頼もしい。


「実は、バロール教団の黒幕が何者か、ギルドにいる仲間と推理をしていましたのですぞ」


 ジャネットお手製のバジルパスタをもしゃもしゃ食べながら、レオが切り出す。


「最有力は、ドイツにいるマルティン・ルターでした。彼は……ゴホッゴホ!」


 パスタが喉に詰まったのだろう。喋った後、レオは咳払いをする。


「ああ、すんません。おいしくなかったッスね」

 ジャネットが、レオのテーブルに水を差し出す。


 料理に慣れていないのか、ジャネットのパスタは少しパサパサした。味も塩辛い。


「ジャネット、あなたお毒味役でしょ? もう少し料理に明るくならないのですか?」


「毒見するのと料理するのは、別の能力っしょ。王宮料理を真似しろなんて無理ッスよ」


 オルガの説教に、ジャネットも負けずに言い返す。

 まるで嫁と姑だ。微笑ましい。


 味はいいのだ。今度イコに作り方を教わるといい。


「張り切りすぎよ、レオ。続けて」

 レオは「すいません」と断りを入れて、コップの水を飲む。


「マルティン・ルターほどの頭脳なら、バロール教団を結成する知恵もあるでしょうな。神学科ですが、カトリックが好きではないそうですし」


「でも、違うのですね?」

 オルガが急かすと、レオは「はい」と続けた。


「それでも、ルターは違うでしょうな。いくらカトリックに嫌悪感があっても、正義感が強すぎる。フランスに対する敵意・憎悪も感じませんな。彼にフランスを襲うメリットがない。歯牙にもかけんでしょうな」


 天才的頭脳を誇るルターなら、魔物を呼び出す技術も高いと思っていたらしい。が、実物を確認しに行ったところ、当てが外れたという。


「ルターなら、バロールすら信じないでしょうな。むしろ敵対する側でしょう。彼が信じるのは自分か、自分の中にある神のみ」


「まるであんたみたいだね」

 リザが、話に割って入る。


「同じ匂いは感じましたぞ」

「マルティンと言えばさ、ポルトガルには、マルティン・ベハイムなんているよね」


「なるほど。彼もドイツ人の天文学者ですな」


 ポルトガルの王、ジョアン二世に仕える学者である。

 世界初の地球儀を作ったとされる男だ。


「断然、怪しいじゃん。大当たり」

 確信を持って、リザは断言した。


「けれども、ありえませんな」

 リザの推理を、レオは全否定する。

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