ジャン・ド・サン=レミ教授
「どうしてさ?」
「ベハイムクラスの大物がバロールの手先なら、まずポルトガルを滅ぼしますぞ。誰にも知られず、ひっそりと」
頬を膨らませたリザに、レオはきっぱりと正論を突きつけた。
「バスコ・ダ・ガマは死にかけたじゃん!」
「あれはニホンの出来事ですぞ?」
また、彼もフランスに恨みを持っていない。
「ああ、あいつは? コペルニクス」
世紀の天才の名が上がり、部屋の中がどよめく。
「こいつも占星術師だよ?『地球が太陽の周りを回ってるんだ!』って主張していたけど」
「ポーランド人がフランスをですかな? ドイツを追い抜いて?」
確かに、ポーランドからフランスを襲撃しようとすれば、間にあるドイツが邪魔だ。
「それに、彼が黒幕なら、狙うのはモンゴルでしょう」
ポーランドは、一三世紀のモンゴル侵攻で大変だったらしいから。
「ドイツなら、天文学者のペトルス・アピアヌスがいますね」
今度は、オルガが切り出す。
「いくら頭がいいからと言って、一〇代かそこらの若造に誰がついて行きましょうか?」
アピアヌスのような若き天才が認められるのは、まだずっと先の話だろう。
「フランス人を代表する学者なら、ピエール・ダイイがいますが? 神学者ですよ」
「亡くなっています」
「ジャン・ジェルソンは?」
「同じく、この世にはいません。
オルガの推理も、レオが論破する。
どの学者も、バロール教団と関わりは薄かろうというのが、レオの説である。
当てずっぽうではない。
ジャネットのきょうだいを使いに出して、十分な下調べも終えていた。
「では、最終的に誰が候補に挙がったの?」
「ジャン・ド・サン=レミ教授です」
アンは、眉間に皺を寄せた。
「本気で言っているの?」
「レミ教授は、医術に精通しています。古の怪物と人間を融合させるなど、造作もないでしょう。また占星術にも長けた彼なら、イコ殿が見たという『空に映った悪魔の瞳』の正体も分かるかと」
空に浮かぶ赤い瞳の話は、パリに来る前、イコから聞いている。
魔王バロールの影響は、日本にも起きているのではないか、とイコは心配していた。
フランスに来た日本大使の話だと、日本は乱世に突入したという。
「直接聞けるかは、分かりかねますがな」
「いえ、どんでもないわ。直接聞き出せるかも」
「ご冗談を! どうしてそんなことが言えるのです?」
アンは、クロードが入学する学校から配られたプリントを、レオに見せつける。
「サン=レミ教授なら、クロードの学校で先生をしているわ!」
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