クロードの晴れ姿

「よく似合っているわ」


「ありがとうございます、お母さま」

 小学校の制服に着替えたクロードが、くるりと一回転をする。


 アンとルネは、クロードの晴れ姿に拍手を送った。


「明日が楽しみね、クロード」


 もうすぐ、クロードが小学生に上がる。


 今日は制服が到着し、サイズ調整をしたのだ。

 紺色のワンピース、日よけのベレー帽に身を包む。茶色い革製の肩に掛ける。


 微笑ましい衣装に身を包んだ娘は、まるで天使と見間違えるほど。

 いや、天使そのものだ。

 ベレー帽は本来、聖職者が身につける帽子に由来する。

 よって、天使が降臨したのだ。

 実質天使ではないか。

 クロードマジ天使。


「おかあさま」


「ハッ!」

 ルネに肩を揺さぶられて、アンは自分を取り戻す。

 気がつけば、クロードにひざまずいている。

 あやうく、天に召されるところだった。


「ヨダレが出ていますわ」

 母の失態を見かねたクロードが、ハンカチを取り出してアンの口元を拭く。


「レオを呼んでくるわね。この姿を絵画として残しておかないと!」

 立ち上がろうとしたアンを、クロードが止めた。


「そんなことをしていたら、学校に行けません。モデルとして、何ヶ月も座っていないといけませんわ」


「それもそうね」

 冷静になって、アンは座り直す。


「クロード、くれぐれもヤンチャをしないように」


 幼稚舎時代、クロードの破天荒ぶりに、アンは結構な回数の呼び出しを受けた。

 クロードがいじめっ子を殴って謝らせたことだって、一度や二度ではない。

 人のためとはいえ、すこしやり過ぎだと注意はしたが。


「持っている者は、義務を果たすべきなのでは?」


「クロード、義務は振りかざすものではありません。権威をまき散らしていると、いざというとき、誰も味方がいなくなりますよ」


 アンも強情を張って、ナントを危うくしたことがある。

 どこに嫁ぐが意固地になって、あやうくナントが滅ぼされかけた。

 結局すべての味方を失って、アンはフランスの妻となっている。

 ナントのためを思えば、自分が耐えればいいこと。


 だが、耐えたからこそ、クロードをここまで育てることができた。


 ようやく手にすることができた、母としての幸せである。


 この日常を守るのが、今のアンの使命だ。


「使うべき時を見極めるの。でないと、あなたが弱い者イジメになってしまうわ」

「承知致しましたわ、お母さま」


「さすがね。あなたは私の天使よ」

 クロードを制服から私服に着替えさせ、アンは本だらけの自室に戻る。 


「浮かれている場合ではございません、王妃殿下」


 オルガの忠告に、アンは冷や水をかけられた気分になった。


「そうよね。あんな事件さえなければ、落ち着いていられるのに」


 セーヌ川・平民街付近で、女性教師の死体が発見されたという。

 現場は、学校からも近い。

 学校関係者が何人も、事情聴取を受けたという。


「調査は進んでいるの?」

「さきほど、レオ様がお見えになりました」

「ジャネットを迎えに来たの?」

「いいえ。有力な情報を掴んだと」

 

 レオが思わぬ情報を持ってきたのである。


 敵の正体が掴めたかも知れないと。

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