大胆な告白は天才の特権

 事情はこうだ。

 ちょうど、レオとジャネットは通じ合っている。

 交際しても差し支えない。


 また、貧民街出身のジャネットが警戒に動き回るには、ある程度の身分が必要だ。

 レオナルド・ダ・ヴィンチ夫人なら、平民の資格を得られる。


「名前だけでも、ダ・ヴィンチの妻となること。これが条件です」


「なんでアタイなんスか? レオさんにはジョコンダさんがいるじゃねえスか?」


 ジャネットが発言した途端、「冗談言わないでおくれよ!」と

リザが抗議してきた。


「彼女はエルフよ。人間なんか好きになるもんですか」


「そうそう。あたしらにとって人間ってのは、人にとっての犬猫みたいな存在なのさ。性欲も恋愛感情もないっての」


 それがエルフなどの異種族の人間観なのである。


「あなただって、まんざらでもないのでしょう、ジャネット?」


「まあ、イヤではないッス。レオさんさえよければッスけど」


 レオは、スックと立ち上がった。

「問題どころか、大歓迎ですぞ! こんなに素敵なレディと添い遂げられるなんて!」


 レオの返答に、ジャネットは困惑気味になる。


「アタイ、アンタを殺そうとしたんッスよ?」

「あれは本気ではありますまい! ガチで来られていたら確実に仕留められておりました。昨晩の格闘術を見て、確信しておりますぞ」


 レオを甘く見てはいけない。彼だって冒険者なのだ。

 相手が手加減しているかどうかなど、見通せるのである。


「まったく。どうなっても知らないッスよ」

「こんなチャンス、逃す手などありますまい!」


 話が済んで、アンが手を叩く。

「決まりね。じゃあ、籍を入れに行ってちょうだい」


「ありがとうッス。縁談まで進めてくださって」

「誤解しないでね。あくまでも形式だけのつもりだったんだから」


 それに、ジャネットは毒味役から外れてもらう。

 代わりの職業が必要だ。しかも危険である。

 ならば、帰りを待つ家族がいた方が、彼女にとってはいいのでは、と考えたのだ。


「こんなアタイのために、そこまでお考えに」

「勘違いなさらないで。あなたを選んだのはオルガよ」



 アンから出てきた言葉に、オルガが恐縮した。

「殿下」


「あなたをオルガが見込まなければ、私もこんな条件を出さないわ」


 オルガは、ジャネットを気にかけていた。

 きょうだいごと面倒を見ようと決めたのだ。

 ただ、王国からは費用が出せない。よって、ダ・ヴィンチの知恵を借りたのである。 


「オルガ姐さん、ありがとうございます」


「まっ、まあ、精進なさって!」

 プイ、とオルガが横を向く。


「照れてる照れてる」


「なぁんですってぇ!」

 茶化してきたリザを、オルガが追いかける。

 

 こうして、アンはまたパリの危機を救った。

 だが、バロール教団との戦いはまだ終わったわけではない!

 負けるな。アン・ド・ブルターニュ!


(第三章 完)

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