伝史聖獣の装甲をナメるなよ!
「たかが機械仕掛けのゾウ一頭くらいで偉そうに! そんなポンコツで、このアタシを止められるとでも思ってるのかい?」
ドロテが腕を振り上げた。ハンマーの如き腕の一撃を、ゾウの脇腹に突き刺してくる。
だが、鋼鉄のゾウはビクともしない。
とはいえ、鉄板は想像以上に薄かった。
おそらく、金属の堅さで防いでいるのではなさそうだ。魔力か、神の力かは分からないが。
「なんの! 伝史聖獣の装甲をナメては困りますぞ!」
我がことのように、レオが息巻く。
「ゾウに攻撃が利かないなら」
ドロテは、アンに照準を切り替えた。
ウロコまみれの蹴りが、アンに襲いかかる。
「反撃しなさい、ド・リル!」
ゾウはドロテに尻を向けた。四本の足を曲げて、ドロテの顔面に蹴りを仕掛ける。器用にカウンターで、ドロテのアゴを打ち抜いた。
「やろおおお!」
怒りに燃えるドロテが、立ち上がりざまに回し蹴りを浴びせてきた。
両足に重いキックを食らう。
が、鼻を使った体移動で難なく体勢を整える。
「体当たり!」
低空タックルで、ゾウはドロテの脇腹に頭突きを喰らわせた。
「ぐふう!」
さしものドロテも、ウロコが生えてない部分に攻撃されて悶絶している。
「今よ、伝史聖獣! 一気に片をつけるわ」
アンの指示に従い、ゾウの長い鼻に、わずかなスキマが蛇腹のように広がった。
鼻の皮膚が、観音開きのように開き、鼻の中心に、剣を差し込む部分が突き出る。
これに、クラウ・ソラスを差し込めというのか。
アンは、髪飾りを解く。強く握り込んで、銀の剣に血まみれの手を滑らせる。
銀色の剣が、アンの血を吸って青白く光る。クラウ・ソラスが真の力を解放した。
青い光を放つ剣を、アンはゾウの鼻に寝かせる。
観音開きだったゾウの鼻が閉じていく。クラウ・ソラスを納めるように。鼻先に、剣の切っ先がきていた。
アンは、剣の柄頭に足をかける。
再度、ゾウは体当たりを仕掛けた。ゾウとは思えない早さで。
クラウ・ソラスが、ドロテの心臓部分に深々と刺さる。
「貫きなさい、クラウ・ソラス!
アンは、足で剣の柄頭を蹴って押した。
銀色の剣が、槍のようにドロテの心臓を貫く。
剣から発せられる聖なる波動が、ドロテに流れ込んだ。
身体の内側から、聖なる光がドロテを焼き尽くす。
「おおおおあああああああ!」
苦悶の悲鳴を上げながら、ドロテは灰になった。
「やりましたぞ! ついに伝説の聖獣を乗りこなしましたぞ!」
バンザイしながら、レオがはしゃぎ回る。
「ありがとう、伝史聖獣」
勝利したアンを称えるように、聖獣は天に向かって吠えた。同時に、幻だったかのように輪郭がぼやけていく。
「消滅したの?」
「元の場所に戻ったのですぞ。自分たちの故郷である世界に」
となると、クロ・リュセ城にも戻っていないだろう。
疲労が本格的に襲ってきた。アンは息が荒くなる。聖獣を操るには、アンの体力も消耗するらしい。
「大事ないですか、殿下?」
「平気よレオ。それより、ジャネットをお願い」
レオに代わって、フランチェがアンに肩を貸す。
「ジャネット、明日、お話があります。必ずレオたちの屋敷に来ること。いいわね?」
そうジャネットに釘を刺し、アンは王宮へと戻った。
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