レオの成敗《ピュニール》!

 だが、ジャネットに勝てる相手だろうか。


 ドロテにダメージは与えた。回復しているが、その分だけ体力も消耗しているはず。


 また、ジャネットにはレオが側についている。


 それでも、力量差はギリギリだろう。


 ジャネットとドロテが、各々の武器を打ち合った。レオも銃撃でサポートする。

 アンの見込み通り、勝算は五分と五分だった。


「大丈夫なの、レオ?」


「心配ご無用! この天才レオナルドにお任せを!」


 レオとジャネットは追い詰められている。後ろへ後ろへと追いやられていった。


 銃を持っているレオを相手して、まだ互角の勝負ができるとは、やはりドロテは侮れない。


 アンは加勢しなかった。


 手を貸す気はある。


 しかし、ジャネットには自力で過去と決別してもらわなければ、とアンは考えていた。


 他人の過去に割り込んで、いちいち手を差し伸べていれば、対象を自分で何も解決できない人間にしてしまう。それではアンの配下としてはやっていけない。

「観念しな。力の差は歴然だよ。おとなしくあの世へ行きな」

 勝ち誇ったように、ドロテがにじり寄る。

「それは、こちらのセリフですな」

 不利な状況に追い込まれながらも、まだレオは勝負を捨てていなかった。

「自分が圧倒的に有利だと思っている相手を、相手が知らぬ間に追い詰める。なんとも愉悦な気分ですぞ」

「お笑いだ。自分が勝った気になってやがる」

 残念ながら、ドロテの言うとおりだ。状況はどう考えてもレオに不利である。 

 レオとジャネットの右手側には、下水が流れる奈落が。手すりなど、掴むところもない。もし落ちたら、ひとたまりもないだろう。

「この要塞と思しき隠れ家も、通路までには工夫を凝らしていない」

 レオは、壁に手を滑らせた。

 壁には、大きな赤いスイッチが。

「だからどうしたのさ?」

「それが、あなた方の限界です」

 レオは、壁のスイッチに拳を叩き付けた。バンと音が鳴る。

 ドロテの足下が、ガクンと傾く。

「てめえええええ!」

 驚愕の表情を浮かべながら、ドロテが奈落の底へ落ちていった。サイを投げつけたが、ジャネットの蹴りで打ち落とされる。

「これが、吾輩の成敗ピュニールですぞ!」

 ドロテの落ちた穴に向かって、レオが雄叫びを上げた。


「やったわね」

「吾輩に掛かればこんな敵など」


 だが、勝ち誇るにはまだ早かったらしい。


 突然、地震が起きた。


「この程度の揺れなら、下水道が崩れる心配はありませぬ。ですが脱出を!」


 レオの後を追い、アンたちは外に出る。



 そこで、アンたちはおぞましい光景を目にした。



「なんだい、あれは!?」


 リザが指さす方角には、セーヌ川に顔を出す巨大なドロテの姿が。

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