男爵よ、余の顔を忘れたか!
「なんだお前たちは、揃いも揃って不法侵入じゃないか!」
アゴ割れ男爵が、アンたちの方を手で払う。
アンが、ディプレシの前に立った。
「こんなところに地下要塞を作っていたとは、男爵!」
「冒険者風情が、生意気を言いおって!」
「……ディプレシ男爵よ、余の顔を忘れたか!」
名指しされた男爵が、機嫌悪そうにアンの顔を覗き込む。途端、冷や汗まみれに。
「ななな、おお王妃殿下ぁ!」
態度を急変させ、ディプレシが土下座をした。
「その方、国に黙ってこんな地下要塞を建造、ならびに毒ガスで住民を苦しめようとしていた。証拠はすべて応酬してある。おとなしく裁きを受けよ!」
アンに問い詰められ、男爵がさらに頭を低くする。
「ましてや、子どもたちを実験道具として殺そうとするなど言語道断! 許すわけにはいかぬ!」
「ははーあ」
ドロテも土下座した。
「ふふふ。かかかかっ」
「貴様、不敬だぞ!」
デュプレシがドロテの無礼をたしなめる。
だが、ドロテは笑うことをやめない。
「あはははー。まさか、お相手が王妃殿下だったとはねぇ。いいじゃないか。面白くなってきた。さて殿下、あんたはどうやって泣くんだい!」
「試して、みなさい!」
チャキッと、アンの剣が鳴った。
「やっちまいな!」
ドロテが配下に指示する。
武装した兵士たちが集まってきた。
刃のない銀の剣を振り下ろし、アンは兵隊たちを撃退する。
一人には胴を払い、一人には背中に叩き込む。
後ろの敵は足を払う。
迫り来る悪党へ剣を打ち込んでいった。
「ええい、だらしない! ダ・ヴィンチから殺すんだよ!」
ドロテの指令を受け、兵士が照準をレオに移す。
動いた瞬間、ドロテの配下たちは切り裂かれた。歩いているだけの日本人に。イコである。居合いの速度が見えず、歩いているだけにしか見えないのだ。
「寄らば、斬り捨てる!」
イコは、レオとジャネットを守る状態に。
「まだ新手がいたのかい! やれ!」
四方から、配下が続々と集まってくる。
アンは、ドロテの手下を次々と打ち倒す。
別の戦場で、フランチェが長い槍を操って敵をなぎ倒していた。
旋回する槍の攻撃で、多数の兵士が斬り捨てられていく。
敵が三方向から、フランチェを攻める。
「ぬうう!」
フランチェは、槍の柄を捻った。
柄が三つに分裂する。つなぎ目は、鎖で繋がっていた。
「あれは東洋の武器、三節棍でありますな」
解説しながら、レオがヒゲを撫でる。
三方向からの攻撃を、フランチェは見事に防ぐ。
彼は、元々槍使いだったようだ。ロングソードは補助武器だったらしい。
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