ジャネットとドロテ
「吾輩が掛け合ってみましょう。あなたは致命的な罪は犯していない。すべて子どもたちの為だ。今なら更生できましょうぞ」
「無理ッス。子どもたちのことは頼んだッス。アタイは一人で死ぬッス」
「バカおっしゃい!」
自分でも不思議なくらい、レオは怒鳴った。どうして彼女に固執するのか、感情を説明できない。
「きょうだいたちには、あなたしかいないんですぞ! 一人で無責任に死ぬつもりだったら、悪党に加担しなければよかったのですぞ!」
「じゃあどうすればよかったんスか!? きれい事だけじゃ、貧民は救えないッス!」
悲鳴にも似た、ジャネットの叫び。
「吾輩を頼りなさい!」
レオはその全てを受け止めた。
「吾輩を頼ればいいのですぞ。貧民が立ち上がれないのは立ち上がり方を知らないからですぞ。吾輩なら、貧乏から自力で乗り越える術を教えられますぞ。大変ですけどな!」
確信を持って言える。自分の知識は、身につければ確実に生きる上で役に立つだろう。
「絵の技術……じゃないッスよね?」
「芸術に向いている子なら、教えてもいいでしょうぞ。だが、もっと建設的な、数学やら文字やら、金持ちの考え方などですぞ」
「面白そうッスね」
ジャネットは、牢屋を蹴破った。
「なんのおつもりで?」
「逃げるッス。アンタを連れてこいとしか言われていないッス。後はこちらの勝手ッス」
「きょうだいは、どうなさるおつもりで?」
「もちろん、あんたに救出に協力してもらうッス」
なんと剛毅な。レオは笑わずにはいられない。
「変わったお人ですな」
「アンタにだけは、言われたくねえッス」
ジャネットはレオを背負う。女の細腕で軽々と。
「ささ、とっととスタコラサッサで……」
「そうはいかないよ」
ショートカットの女が、手下を引き連れて現れた。東南系の武具を、手にしている。
すぐ隣には、デュプレシ男爵もいた。アゴが二つに割れたマッチョだ。
駆け出そうとした、ジャネットの足が止まる。震えまで起きていた。
レオはジャネットから降りる。
「ドロテの姐さん」
「ジャネット、アンタを拾って上げた恩を忘れたのかい? それとも、こんなヒゲがタイプってか?」
下品な笑みが、ドロテと呼ばれた女から零れた。手下は仕方ないという感じで、作り笑いを浮かべている。
「レオナルド・ダ・ヴィンチをそう簡単に逃がすと思ったってか? あんたに誘拐を頼んだのはねぇ、あんたが裏切るかどうか確かめるためだったんだよ!」
「予想が当たって、ようござんしたッス!」
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