ジャネットの過去

 レオは、薄暗い部屋の中で目を覚ました。

 起き上がろうとしたが、鎖で縛られている。


「ここは?」


 かたわらには、ジャネットが立っていた。腕を組んで、壁にもたれながら。


「例の、地下要塞ッス」

 こちらを監視するような眼差しを、ジャネットは向けてきた。


「ここで、何を行おうと?」


「毒ガスの実験って言っていたッス。もっとも、宛てはハズレたんスけどね。兵器の作り方だろうと読んでみたら、汚物をクリーンに処理する方法しか載っていなかったッス」


 ジャネットの雇い主はボヤいていたらしい。


「毒ガス攻撃なんざ、非効率ですからな」


 大量虐殺兵器としては便利だろう。

 しかし、強力な殺傷能力は、土壌まで汚す。

 侵略目的で用いるには、ガスとは実に非合理的な兵器だ。


「殺すことが目的なら、魔法がありましょうぞ。それでよろしい」


 ガスで殺す意味がない。


「誰にも知られずに、多くの人を殺す必要があったらしいッス」


 ジャネットの情報を基に、レオは思案した。


「まさか、イケニエでしょうかな?」


 それなら、苦しめて殺す必要もあろう。

 悲鳴がご馳走と考えるモンスターを呼ぶなら。


「アタイには、難しいことは分からないッス。もっぱら、人の命を奪う簡単な仕事しかしてこなかったスから」


 ジャネットは、人やモンスターを素手で殺す訓練を受けているという。


「アン王妃の命も狙っていたと?」


「男爵は、地下建設に目をつけたアン王妃を暗殺できないかと考えていたッス。でも、殿下が急にいなくなったので、予定を変更したッス」


 地下道を改造し、毒ガス開発施設にしようとしたらしい。


 やはり、パリ住民をイケニエに捧げようとした線が濃厚だ。


「あなた程の腕前なら、抜け出すこともできたはずですが?」


「きょうだいたちを盾に取られ、アタイはやるしかなかったッス」


「そのきょうだいたち、というのは?」


 彼女の口ぶりだと、本当の家族ではない。


「おおかた、実験動物のような位置づけでしょうな」

「お察しの通りで」


 ジャネットの説明だと、どうやら毒ガス実験の被検体に使うつもりだったらしい。

 子どもまで犠牲にするディプレシの行いに嫌気が差し、ジャネットは組織を抜けた。


「でも、結局見つかって。子どもたちを巻き込みたくなかったら、協力しろと」


 現在王宮を取り仕切る妃殿下の暗殺、もしくはレオナルド・ダ・ヴィンチの研究を盗め、と。


「王族に手は出しづらい。だから、こっそり計画を実行しようと。そのために、任務が監視に切り替わったッス。どっちにしても、アタイは打ち首ッスけど」

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