デュプレシ男爵の陰謀

「イヤなヤツが来たね! 勝負は預けたよ!」


 アンを置いて、ドロテ一味は苦々しい顔をしながら引き返す。


 後ろを見ると、久しい男性が何人もの配下を引き連れて現れた。


 右手側にはナタ状の両手剣を肩に担いだ女剣士が。左にはトゲつきのハンマーを片手で振り回すシスターが並ぶ。


「アンジェリーヌちゃん、大丈夫かしら?」

 赤子を抱くようにリュートを担ぎ、吟遊詩人はアンを気遣う。


「ギルマス」


 モリエール一世が、駆けつけてくれたのだ。 


「ありがとう。助かったわ」

 アンは、剣を鞘に収める。


「ボクの加勢なんて必要なかったみたいね」


 アンは首を振った。あのまま戦えば、死者が出ていたであろう。アンも本気を出さずには、倒せない相手だった。


「リザから、アンジェリーヌちゃんの様子を見てきて、って言われて。無事でよかったわ」


「そう簡単にくたばるつもりはないわ」


 しかし、賊に逃げられたのは痛い。一人でも捕まえられたらよかったが。


「貧民街のどこかに、王宮の金が流れている可能性があるの。そのせいで、この間に作った下水関連の支払い額が少ないんですって。分かる?」


 アンの問いかけに、モリエールは「ああ」と手を打った。


「だったら、男爵のデュプレシよ」


 ディプレシの噂は、フランチェからは聞いていた。実質的な責任者はオルガの直属なのだが、ディプレシ男爵が仕切っている。


「あそっか。あいつら見たことがあると思ったのよ。さっき戦った、ドロテって女。デュプレシの片腕だったわ」


 傭兵崩れで、腕は立つ。が、強い相手以外に興味がない、戦狂いだとか。


「デュプレシの女かしら?」


「とんでもないわ。ドロテの方が立場が上じゃないかしら」


 闇ギルドを取り仕切っており、男爵はおこぼれをもらう程度だという。


「それにあいつ、自分以外は獲物かそれ以外か、って考え方だから」


 殺すに値するかで、相手を見極めるらしい。


「なんか、バックにとんでもない組織が絡んでいるらしいのよ。ババア教団とか?」


「バロール教団ね?」


「そうそう、それそれ!」

 モリエールが手を叩く。


「とはいえ、末端構成員らしいけどね」

 末端であの強さか。


「ヤバい相手に目をつけられたわね、アンジェリーヌちゃん。守ってあげよっか?」


「結構よ。あなたこそいいの? 男爵に敵対しても」


「ボクだって侯爵家系だもの。うかつに手は出せないでしょ」


 そうかも知れないが、用心するに超したことはない。


「貴重な情報をありがとう。ギルマスも油断しないで」


「していないわ。そうやって生き残ってきたもの」


 モリエールの曲者ぶりなら、男爵もうかつに手が出せないだろう。

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