用心棒ドロテ 襲来

 アンは馬を下りた。馬を先に帰らせる。ギルドで借りた馬だ。後は自力でギルドに帰るだろう。


 リザもメルツィも調査に出ていて、今はアン一人だ。いや、アンが一人のときを狙われたか。


 好都合である。敵がエサに食いついた。慎重に城を抜け出したので、つけられた様子はない。鉢合わせたと見ていいだろう。


 ザッと見たところ、敵は二〇人程か。

 一人でも対処できそうな数だ。


「お前さんが、冒険者アンジェリーヌか。貧民街を嗅ぎ回っているそうじゃないか」


 一人の女が、アンと同じように馬から下りた。腰に携行しているサイが、虫が手をこするかのごとく不安な音を鳴らす。


 ツヤのない、真っ黒な馬である。馬と呼んでいいのだろうか。目に黒目部分がなく、全体的に紫色だ。病気でそうなったようには見えない。生まれつきだろう。


 女の方からも、馬に劣らない異様な気配が漂う。色気を放棄した刈り上げショートに、作り物のように丸い瞳が特徴的だ。

 身体にへばりついた革製の衣服は、肌着を思わせる。細身ながら筋肉質で、持っている武器も凶器と呼ぶに相応しい。


「でもさ、そんなことはどうでもいいのさ。やっちまいな!」

 サイをアンに向けて、女が手下に号令をかける。


 一〇人が一斉に襲ってきた。


 ブロードソードを鞘から抜く。アンは一瞬で、賊の一人を昏倒させる。


 優勢だと思っていたのであろう。賊の動きが鈍った。


 立て続けに、アンは賊を三人倒す。


「強え。なんてヤツだ!」

 賊が及び腰になる。 


 背後から、何かが飛んできた。


 難なく、アンは弾き飛ばす。横からきた賊にビンタするのも忘れない。


 サイにヒモが付いており、クサリガマのように操っている。


 砂を巻き上げ、アンの視界を奪った。


 まったくの死角から、アンの首筋へサイが飛んでくる。


 サイについたヒモを剣でひっかけ、アンは攻撃の角度を曲げた。


 賊の数人が、サイに小突かれて後ずさる。


「なるほど。こんな奴らじゃ相手にならないね」

 面白がっているかのように、女は笑った。


 この女、できる。


「ワタシの名ははドロテ。傭兵さ。強い女が泣くところを見るのが、ワタシの楽しみ。さあ、あんたはどんな声で泣くんだい?」


 また、サイが砂埃をまとった。


 今度は直接、砂で目を狙ってくる。


 悪手と分かっていても、目を塞がざるを得ない。


 ギリギリのラインで攻撃を防ぐ。だが、これでは防戦一方だ。


「しぶといね。面白くない!」


 しびれを切らしたか、ドロテの攻撃が雑になっていく。


「早くお泣きよ! む!?」


 ドロテの猛攻が止んだ。手下も引いていった。

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