もう一人は盗人?

「どうしてお分かりに?」


「分かりやすいわ。こんな熟練した兵隊なんて、貴族にいるかしら?」


「王妃殿下は剣術が達者でございます」

 そう言われると困るが。


「私は特別よ。ジャンヌ・ダルク(自称)に鍛えてもらったもの」


「それが異常なのだと、お気づきください」


「とにかく、騎士でも敵わないくらいほど、修羅場をくぐり抜けてきたのは確かね」


 フランチェは、「ふう」とため息をつく。


「恐れ入りました。まさか、こんなに早く気づかれるとは」


「貴族の出で兵隊上がりとか、よっぽど落ちぶれなければ候補にすら挙がらないわ。筋肉も引き締まりすぎ。してその正体は?」


「オルガ家の親戚なのは本当なのですが、冒険者ギルドの傭兵です」


「つまり、ダカン家の隠し子ね?」

 アンが指摘すると、オルガはうなずいた。


「夫の兄が、イタリア人のメイドに産ませた子どもです。公表することもできず、かといって殺すのも気が引ける。そこで、戦士として鍛え、私兵として雇いました」


 名目上は、貴族の出だと言うことにして、出入りしやすくなっている。夫のダカン宰相も、大きくなった彼を甥だとは思っていない。それでいいのだ。その方が動きやすいから。


「ごめんなさい。いやなことを聞いたわね」

「とんでもございません。王妃殿下がお気を遣うことでは」

「ひとまず、貧民街の調査をお願いするわ。よろしくね」

「ありがたき幸せ」


 まず、一人。


 腕は確かで、嘘つき。強かさも持っている。並のザコでは話にならないだろう。


 ただ、フランチェにはやや真面目すぎなところがある。もっと柔軟性が欲しい。


 もっと柔軟性が欲しい。


 それは、「もう一人」に任せるか。


「で、もう一人のあの子も、手伝ってくれるの?」


「何をおっしゃいます? わたくしが連れて参ったのはメルツィ一人ですよ」


「じゃあ、あのメイド服を着た女の子は?」


 アンは、本棚を漁っている猫背の少女を指さした。


 少女は器用に本棚をよじ登って、棚から取った「アーサー王伝説」を小脇に抱える。


「くせ者!」

 オルガの声に驚いた少女が、ネコのように飛び上がった。脱兎の如く窓から逃げ出す。


「あの子、また家の品に手を出して!」

 オルガが腕をまくって、彼女を追おうとした。メルツィも後に続く。


「待って、私に任せて!」

 アンは二人の前に立って、制止させた。外套を羽織っただけの町人姿で、アンは表へ飛び出す。


 彼女は絶対に、逃してはならない。

 捕まえて、事情を聞く。


 さっきのメイドは、レオと面識がある少女だったからだ。

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