アンの親衛隊

 自宅の書斎にまで連れてこられるまでの間、オルガに詳しく話を聞く。


「親衛隊?」

 オルガからの提案を、アンは聞き返した。


「はい。親衛隊を結成なされませ。特に、優秀な配下を」

「なんでよ? 自分の身は自分で守れます」


 アンには、冒険者としての実績がある。今さら何に注意しろというのか。


「その慢心が、事故の素だというのです」

 また、オルガの小言が始まりそうだ。


「ここから先、お一人で出歩くのは危険です。綿密な調査も必要でしょう。なにより、王妃という身分が邪魔をする場合もございます。限りなく普通人に近い感性を持つ人物が相応しいかと」


 ぐうの音も出ない程の正論で返される。

 アンの無茶を把握している人間の意見だ。


「そこまでいうなら、心当たりがあるのね?」


 中途半端な実力では承知しない。


 アンの敵はバロール教団なのだ。


 肉体的だけではなく、精神的な強さも必要になってくる。


「ただ今、呼んで参ります」


 書斎に着くと、一人の青年が立っていた。


「信用できるの、オルガ?」

「我らダカンが誇る、優秀な護衛です」


 オルガの紹介で、革鎧を着た騎士がアンの前に出る。

「フランチェスコ・メルツィ、二〇歳です。剣の腕では誰にも負けません。フランチェとお呼びください」


「彼は、ダカン家が誇る私兵の一人です。特に戦闘に特化してございます」


 メルツィは、ガッチリしたタイプの剣士だ。ショートソード一本だけしか持っていないのに、まるでスキがない。


「名前と目鼻立ちからして、外国人ね?」


 ルックスと雰囲気から、フランチェからは人をたらしこめそうなオーラが漂っている。


「イタリア出身の元貴族です。亡命しまして」

「国を裏切ったの?」

「没落しました。フランスに望みを得ようと」


 オルガ夫人の親戚筋であり、夫人のボディガードを数年勤め上げたという。


 だが、戦争で主が死に、一族は没落した。一粒種のフランチェだけを残すのみである。


「ふぅん」

 ノーモーションで、アンは剣を振り下ろそうとした。


 だが、剣が手元にない。どこへ行ったのか。


「ご冗談を」

 いつの間にか、剣はオルガが後ろに隠し持っていた。


「どうして、斬りかかると分かったの?」

 オルガに剣を返してもらう。


「先ほどから、全くお話を聞いていらっしゃらなかったので」


 アンがずっと剣の方をチラチラ見ていたのが、フランチェは気にしていたらしい。

 何かを試そうとしていると直感で分かったそうな。



 確かに見込みがある。先日連れて行った騎士たちに、フランチェの爪の垢でも飲ませたい気分だ。


「じゃあ、私兵というのもウソね」


 今度は、オルガが驚く番だった。

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