貧民街の内情

 イコは、少し多めに、残り物を物乞いたちに配っている。


 顔をほころばせた後、物乞いの少年少女たちは頭を下げた。歩き食いしながら去って行く。


「行かなくていいの?」

 アンは、レオの肩に手を置く。


「いえいえ。話すことなど」

 カッコ悪いところを見せてしまった手前、うまくアプローチできないのだろう。


 レオの様子を見て、リザが吹き出す。

「なに陰キャぶってるのさ。きっかけだけでいいんだよ」


 男のくせに、レオはしおらしい。いつものように堂々としていればいいのに。


 レオがためらっている間に、少女たちは去って行ってしまった。


「あの子たち、よく来るの?」

 厨房に顔を出し、アンはイコに事情を聞く。


「ここ数日前から住み着いておって。暮らしに響かぬ程度の残りものを与えているでござる」「貧民街は隣よね?」


 寄付金などが機能しているはずだが。


「どこも景気は良くなさそうでござる」


 どう考えてもおかしい。


 レオがこの街に来た際、アンは貧民たちに仕事を与えていた。


 セーヌ川に魚が戻ってきたのも、下水道処理技術のおかげだ。

 レオが周辺を設計し、貧民へ仕事を回した。

 

 いわゆる公共事業である。

 効果はてきめんであり、川から異臭がしなくなって久しい。


 働いてもらって、貧民は多少なりとも潤っているはず。


「妙ね」

 不穏な空気を感じた。


 アンは、自分の席に戻る。

「何かございまして、お母さま?」

「こっちの話よ」

 今は、娘たちへのサービスを優先したい。

 デザートのパンケーキを楽しんだ。


 娘二人を王宮へ返した後、アンはリザともう一度話し合う。

「モリエールに話を聞いたんだけど、貧民街で不穏な動きがあってね」


 貧民街への寄付は、やはり滞っているらしい。どこかで援助が止まっているという。特定の期間に流れているのでは、と。


「ただ、貧民街関連に依頼がなくってさ。調査していないんだって」


 相手は貧民だから、報酬も払えない。悲鳴がギルドにまで届かないのだ。


「あたしに依頼してくれたら、調べてみるよ」


「あなた戦闘要員でしょ? レオを欠いている状態で、無理はさせられないわ」


 リザの能力は、レオがいてこそ発揮される。


「それにこれは国の問題よ。もっと大規模な探索が必要だわ。一人で調べてもらうわけには」


「あんただって、無茶をしようとしているじゃないか。あんたのバカ力でさえ、貧民を背負うには荷が重いよ」


「バカ力とはなによっ」


 話し合っていると、何者かが割り込んできた。


「その件について、お話がございます」


 オルガである。

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