めざといモリエール

「あなたの運営するギルドは、社会に大変貢献しています。悪徳貴族をこらしめているそうではありませんか」


「ああ、アンジェリーヌちゃんのことね」と、ギルマスのモリエールは手を叩いた。「彼女ったら凄いのよ。ここ数週間で悪い貴族さまを三つ潰したんだから。おかげでギルドは大繁盛よ」


 貴族の横行が減り、冒険者の取り分などが見直されていると聞く。貴重な薬草やモンスターの素材を独占されることも減った。


「今日は来てないのね?」

 キョロキョロと、モリエールはリザの周辺を見回す。


 アンはよく、リザと行動を元にしている。リザに同行していると思っているのだろう。


「お妃様に黙って、ノワールムティエに向かったって聞いたけど?」


「私は、彼女とは知り合いじゃないから」


「アンジェリーナちゃんに会ったら伝えてちょうだい。あなたはパリの守り神だって」


「会いたいのは、私の方だわ。そんな立派な方がいらっしゃるなんて」


 自画自賛しているようで毛恥ずかしい。だが、謙遜するとボロが出そうなので称えておく。


「なら、ぜひギルドの酒場に入らしてちょうだいな。美味しいお酒で出迎えちゃうから!」

 ウインクして、モリエールは両手を胸の前で重ねた。


「じゃあ、失礼するわ」

 アンは馬車に足をかける。


「そうそう!」と、モリエールが後ろからアンに呼びかけた。


「な、なんでしょう?」





「お妃さまは、どうしてボクがギルマスだって分かったの?」






 思わず、アンは冷や汗をかいた。


「お妃さまには、ボクの素性は教えてないわよね?」



「あ、あなたのお噂は色々と聞いているわ。極めて優秀だって」

 実際にそうである。やることはやっているのだ。


「へー、ボクって結構有名人だったりするのかしら?」


「も、もちろんよ! だってポクラン家のお坊ちゃまでしょ? 王宮に支援までしてくれている方ですからね。感謝しているのよ。オホホ」

 苦し紛れに、アンは言い訳をする。


「はいはい。おしゃべりはそれまでだよ! アン王妃さま、お時間ですよー。ささ、参りましょう参りましょう」

 個人情報がバレそうになったところで、リザが助け船を出してくれた。


「では、私が留守の間、街の治安を守ってくださってありがとう」


「どういたしまして!」

 また、モリエールがリュートを荒々しく奏でる。王家の繁栄を願う歌に変わった。


 詩人モリエールの曲に見守られながら、アンは今度こそ王宮へと戻っていく。


「助かったわ、リザ」


「気をつけなよ、アン。一番正体をバラしちゃいけない相手だ。弱みを握られるよ」


 アンは、不注意を反省する。

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