第二章 完 アンの帰還

 カゾーランの悪事は白日の下となり、関係者は全員斬首された。ポルトガルにいる分もすべてである。


 冒険者たちの動きが鈍かったのは、親族を人質に取られていたからだった。フランス軍の活躍と、アンの口添えもあって、ギルドはお咎めなしに。


 商業ギルドは、新しいリーダーとしてイコを推薦してきたが、イコは断った。パリに移住することにしたからである。


「何から何まで、お世話になります」


 イコ夫婦は、ノワール島を離れる日を迎えた。島の人らに見送られ、アンの馬車に乗せてもらう。


 これもイコの人柄だろうと、馬車の中でアンは思う。


 イコは今、妻と娘と共にアンの向かいに座っている。


 保存の利く食材を持っていき、今後はパリで店を開く予定だとか。もちろん、ナントとも取り引きを頼むつもりで。


 リザとレオを住まわせている真正面には、セーヌ川が流れている。できればそこに店を構えてもらいたいと、希望を出す。しかし、ほとんどの家は埋まっていた。


「ならば、船はござらんか?」

「船を、お店にするの?」


 ニホンには、「ヤカタブネ」という文化があるらしい。船にテーブルを設け、食事を出すのだ。


「変わった文化ね。でも気に入ったわ。船なら山ほどあるから、好きに使ってちょうだい」


 店の補償と迷惑料として、冒険者で稼いだ金をほぼ全額渡す。


「かたじけない」

 イコたちは一家揃ってアンに頭を下げた。


「お礼として、ナントの名産を店に出したく。何か妙案はございませぬか?」


 イコからの質問に、アンは頭を悩ませる。


「ナントの名産と言っても、ガレットに使うソバくらいしか」


「ソバ粉がございますか! ぜひ、譲っていただきたい! 報酬はそれで十分でございます!」


 あまりの食いつきぶりに、隣に座るマチルドとローザも引き気味だ。


「何に使うつもりなの?」


「お菓子にもなるのですぞ! どのようにでもなりましょう! いやあ、ソバがあるとは! あやうくホームシックになるところでござった!」


 随分とうれしそうだ。


 馬が一頭、アンの馬車に近づいてくる。

 敵かと思ったが違う。アンに向けて手を振っているではないか。


「いやあ、災難だったそうですな」

 馬の上で、レオが挨拶をしてきた。


「レオ! 研究の方はどうだったの?」


「バッチリです。といっても謎だらけで、王家にある資料をお借りしたく……おや?」


 レオが馬車の中を覗く。


「で、そちらのお三方は?」

「娘へのおみやげよ!」


 こうして、ノワールムティエ島を覆っていた闇は払われた。

 しかし、バロール教団が諦めたわけではない。


 負けるな大公!


 行け、フランス王妃、アン・ド・ブルターニュ!


(第二章 完)

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