アン 対 移香斎! カゾーランの罠!

 イコが飛び、尾の標的を担当する。


 いくらサソリと言えど、複数を相手にするのは難しいはずだ。まして別々に攻撃されては。


 アンが、サソリの目を潰す。


「今よ!」とアンが合図をした。


 暴れ回るサソリに狙いを定め、眉間に刀を突き立てる。


 サソリは大きく跳ねた後、脱力した。そのまま、動かなくなる。


「かたじけない。アン殿、リザ殿」

 アンが協力してくれたおかげで、巨大スコーピオンは退治された。


「それよりお店に戻りましょう」


「大変だ、店の方角に煙が上がってるよ!」

 リザの言葉に、イコは我を忘れて店に引き返す。


 建物は火の海となっていた。マチルドの父から譲り受けた店が、燃えている。妻と娘は無事か?


「ローザ、マチルド!」


 火にまみれた店に足を踏み入れようとした。

 後ろから、アンに引き留められる。


「行ってはダメよ! あなたまで火に飲まれてしまうわ!」

「妻と娘が中に!」


「きっと逃げてるわ。信じましょう!」

 そう言われても、店から離れられなかった。


「お探しのお二人は、ここにいるぜ!」

 カゾーランの卑劣な声が聞こえる。


 妻と娘が、盗賊に縄で縛られていた。


「二人を放せ!」


「そうはいかん! 娘を助けたかったら、その女剣士を殺せ!」

 アンと斬り合えと。


「できねえなら、女とガキの命はねえ!」


 ローザの首に、ナイフの切っ先が近づいてくる。


 やむを得ないのか。イコは、剣を抜いた。


「愛洲移香斎、どうしても剣を交えねばなりませんか?」

「許せ、旅のお人。あなたに恨みはござらんが、斬らねばならぬ」


 イコはアンに斬りかかる。だが、踏み込みが浅い。まだ非情になりきれない甘さが出た。


 防戦一方のまま、アンは攻撃をしてこない。


「どうしたの? こんな攻撃では私を倒せないわよ」

 アンが挑発してくる。何を考えているのか。


 恐ろしい女性だ。こちらは必殺とはいかないまでも、致命傷は狙っている。

 しかし、アンはそのことごとくを弾き飛ばしているのだ。並の剣術では対処できないはずなのに。


 マチルドやローザたちの身は大切である。しかし、だからといって何も知らない民間人を危険にさらしている。


「何をちんたらやっている!」


 カゾーランが、こちらにヤジを飛ばす。まるでゲームを楽しんでいるかのように。


 彼らのいいように利用されているのが余計に腹立たしい。


 カゾーランが何かに指示を出す。


 教会の屋根の上に、野盗が待機していた。カゾーランの合図に合わせ、弓を引く。その先にはローザが。


 矢が、ローザに向けて飛んでいった。


 即座にアンへの攻撃をやめ、イコは反射的に娘の元へ飛んだ。



 しかし、受け止めたのはアンだった。白く細い腕に、矢が深々と突き刺さる。

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