大サソリの襲撃

 人間より大きなサソリが、建物を壊し、人を襲っている。見えているだけで三匹も。もっといるに違いない。


「出たわね! マチルドさんはそこで!」

 アンたちが巨大サソリに飛びかかった。

 アンが一匹、リザがもう一匹を迎え撃つ。


 店の奥へと進み、イコは床板を剥がした。


 床の下に、黒い鞘に収まった刀が。


 もう二度と触れまいと思っていた、霊刀に手をかける。


「行くのね?」

 背後からマチルドが声をかけてきた。


「ローザを頼む」

 腰に刀を収め、イコは店を駆け出る。


 アンとリザのおかげで、サソリは大半が片付いたようだ。残骸から、一〇匹以上いるように想像できる。


 冒険者の死体もあった。奮闘はしたが、一匹相手でも苦戦したようだ。


 そんな戦場で生き残っているアンとリザは、相当の達人らしい。


 稽古は続けてきたが、人斬りにはブランクがあった。陰流が、化物に通用するのか?


 目の前に、巨大サソリが眼前に。毒針のついた尾が、イコのノドを貫かんと迫る。


「ぬうん!」

 迷っている暇はない。針を避け、居合いを繰り出す。


 サソリの装甲を縫うように、剣が駆け抜けていく。


 スコン、と、サソリが真っ二つに。


 技が通じる。ヨロイのように固いサソリも、つなぎ目を狙えば、たやすく切断できるようだ。


 それにしても、この「村正」の切れ味は。まるで始めから、魔物を斬るために作られたかの如く。


「後ろ!」


 アンの声に、即座に反応する。


 イコに殴りかかろうとしていた、サソリの腕を切り飛ばした。モンスターの眉間に、剣を突き刺す。


「弱点は眉間でござる。眉間のスキマに剣を突き刺せば!」

 イコは敵の弱点を、アンに伝えた。


「そうなの?」

 だが、アンは力任せに、サソリを相手に剣を振り下ろす。


 Vの字に、サソリは絶命した。


 アンはその後も、足下を狙っていたサソリも剣ですくい上げて、場外ホームランを打つ。


 リザもリザで、関節がウィークポイントだと分かると、間接に直接雷撃や炎を流し込んだ。


 もう全部、彼女たちだけでいいんじゃないかな、とさえ思う。


「数が多いでござる」

「どこかにリーダーがいるさ。そいつさえ倒せば、騒ぎも止むだろうよ」


 黒い一体が、領主の館を目指していた。今まで倒したサソリよりさらに大きい。


 複数の冒険者や私兵が、サソリを追い払おうとした。しかし、固い装甲に阻まれ、返り討ちに遭っている。


「あれでござるな!」


「二人がかりで行くわ!」

 イコは、アンと並んで走る。


「私がスキを作るわ!」

 アンは、サソリの両腕と格闘を始めた。

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