イコのレストラン

 イコのレストランに、見慣れない一団が現れた。


 一人は、三〇代前半の女性冒険者である。外見は一般的な冒険者風だ。しかし、衣服の清潔感は気品に溢れている。どこか良家の生まれなのだろう。

 

 もう一人は、エルフの少女だ。先端に水晶をはめた短い杖を腰に巻いている。魔法使いだろうか。絵画のモデルをした方が儲かるのではないかとさえ思える。

 

 二人は一番景色がいい席に座る。


「い、いらっしゃいませ」

「とりあえずシードルを。料理は、ホタテのパンケーキを二つ」


「承知致した」

 オーダーを聞き、イコは厨房へ。


「あら、先日はありがとうございました」

 シードルのカップを二つ分持って、マチルドが二人の席へ。なにやら、親しげに話していた。


「ねえイコ、こちらは、アンジェリーヌさん。わたしを助けてくださったのよ。お隣のエルフさんが、リザさん」

 マチルドが、シードルを傾けていた女性を手で示す。


「どうも」

 カップを置いて、アンジェリーヌという女性が頭を下げた。


「妻を助けてくださり、ありがとうございます」


「構いませんよ。実は成り行きでああなったのよ」


 リザという女性に、アンジェリーヌは話題を振る。


「鍛える名目で、王妃に化けた偽物アンジェリーヌをいつ見分けられるか」を、若い騎士たち相手に実験したらしい。


「アンがブルターニュ王妃にそっくりだからって、王妃さま直々のご依頼さ。そしたら全員不合格でやんの。みんなお城に返されたよ」


 うまくいったから報酬で酒盛りしようってなった、と、リザはこの島に着いた目的を語った。


 なんとも愉快な話だ。


「あの気品は、王妃殿下そのものでしたわ」

「そんな立派な人じゃないわよ」


 イコは三人を見ながら、アンをじっくりと観察をする。


 彼女が冒険者? 一見すると、観光客にしか見えないが。とはいえ、肩に提げた長剣は、間違いなく逸品である。一般的な鞘で隠してはいるが、名のある鍛冶屋か、あるいは伝説級の代物である。


 彼女を斬れというのか、カゾーランは。


「どうしたの、あなた?」


「いや、何もござらん」


 弁解しても、マチルドは尚も食い下がった。


「ダメよ。アンさんは人妻なんだから!」


「拙者がお主以外に色目を使うことなどござらん!」

 マチルドに悟られまいと、調理に没頭する。


「お待たせ致した」


 今日採れたホタテでも一番肉厚なものを用意した。香りだけで、うまいと分かる。


「うひょー待ってました!」

「いただくわね」


 二人がフォークをパンケーキに突き立てた次の瞬間、店の外で悲鳴が上がった。

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